ちゃりお

ムーンライトのちゃりおのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
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「エモ」の一言で片付けてしまいたくなる作品。

黒人、同性愛、母子家庭、違法薬物、いじめ、etc...。現実への問題提起と捉えられるエッセンスがこの作品には溢れている。

しかし、この作品を社会全体の問題を提起するもの、というマクロな視点で捉えたときシャロンという一個人は視界から消えてしまう。

この物語はあくまでシャロンという一人の人間の人生を描いたものであり、決してLGBTQの総意であったり、諸問題への啓発を謳うものではない。

一人の人間の人生を定式化することはできない。その難しさ・不可能性をこの映画は雄弁に語っている。シャロンの人生は「同性愛者」や「黒人」に還元されないし、彼の母親も単なる「毒親」には終始しない。その人の人生を一言で表すことなど不可能なのだ。

さいごに。「エモ」という言葉は言語化しきれない心の動きを表現する役割を担う。それはちょうど個人の人生を定式化し尽くせないのと同じだと思う。

汲み尽くせない感情・形式化してしまうと失われてしまう感情を「エモ」という表現は壊さずに掬い上げてくれる。ゆえにこの作品の感想を「エモ」と表現するのはシャロンという人間の人生をまるごと肯定するためにも有効なのではないかと思う。