カフカさん

ムーンライトのカフカさんのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.9
「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな」(第1部、フアン)

「前とは違う。今は死ぬほど働いても小銭しか稼げないがあの頃みたいな不安は抱えてない」(第3部、ケヴィン)


【あらすじ】
3部構成の映画。
主人公のシャロンの幼少期(「リトル」)、青年期(「シャロン」)、成人後の時期(「ブラック」)を描いている(括弧内はそれぞれの部の名前。「リトル」は幼少期のシャロンのあだ名、「ブラック」は大人になったシャロンの通り名)

シャロンは幼少期からいじめられていた。またその頃辺りから、自分自身がゲイであるのではないかと気付き始める。他方、青年期には周囲の人物から同性愛者であるとしていじめられる。
他方、シャロンの母親は麻薬中毒であり、シャロンをネグレクトすることもあった。

シャロンに優しくしてくれ、彼の人生にも影響を与えた麻薬売人フアンやその恋人のテレサもキーパーソン。
最も重要な人物はケヴィンという男性。シャロンの友人であり、3部すべてに登場する。


【感想】
正直、話題になっていたほどには魅了されなかった。余韻はとてもあるとは感じた。

黒人だけのコミュニティが舞台(白人がほとんど出てこない)。同性愛、差別、いじめ、ネグレクト、貧困など色んな論点や問題が盛り込まれている印象。同性愛だけがクローズアップされている訳ではないと感じた。

コミュニティの中で貧困が広がり、いじめが陰湿になり、さらにそれらが再生産されているようにも思った。貧しい黒人であるがゆえに将来の道はある程度は決まってる。そして、他のコミュニティに属せない。なかなか自分たち属するコミュニティから脱出できない…。
そういう問題が描かれているように思った。

3部それぞれでシャロンの内面を静かに描いていて引き込まれた。シャロンを演じる役者は3部とも違う俳優さん。俳優は違うし、第3部のシャロンはムキムキだけど、どの時期のシャロンにも共通するのが、寡黙、我慢をするところ、よくうつむくところなど。役者さん演技や表情が魅力的だった。

周りの登場人物も印象的だった。シャロンの心の支えになるフアンやその恋人のテレサ、母親、そしてケヴィン。第3部のシャロンと母親の会話と彼らの涙にジーンと来た。
不安を感じる子どもには、フアンみたいな大人が必要なのかもしれないとも感じた。

第3部でかつて関係をもったシャロンとケヴィンが再会する場面と彼らの会話も印象的だった。 愛し合った男たちの「再会」という観点から見ると『ブロークバック・マウンテン』を思い出した。
お互い変わってしまったところはあるけど、通じるものがあったり…。

そして、引用したフアンの台詞にもあるように、自分らしく生きることがテーマなんだろう。

雰囲気中心で、台詞が少なく行間が多い映画だと感じた。その分、俳優の表情が際立っている。映像がとても綺麗(月明かりの下に立つ黒人の子供たち…そしてシャロン)。
しかし、個人的にはあまりはまらなかった。はっきりと描かれていない部分があるので、つまり伏線が回収されていないので好き嫌いが分かれる印象を持った。
でも何回も見直すと新しい発見がありそう。解釈の余地は大きいと思う。
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