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女神の見えざる手のmのレビュー・感想・評価

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
4.8
なんとこれが処女作だというジョナサン・ペレラによる脚本は、展開を巧みに二転三転させ続けながらロビイスト達の駆け引きと人間模様をクリアに捌く見事な出来。そんな脚本を託されたベテラン監督ジョン・マッデンも、しっかりメリハリ付けた演出をしつつ、これまでの作風とは違い時代と内容に合わせた情報量の多さと一気呵成のスピード感で映画を疾走させる。

この映画で何より素晴らしいのは主人公であるスローンの特異な人物像。
頭が滅茶苦茶キレてワーカホリックな勝利依存症、睡眠嫌いで意識を常に明晰に保つ為に薬物依存でもあり、己の勝利の為なら敵も味方も欺く。
銃規制の信条は強いがそれは正義感とは少し違っていて、モラルは無い。フェミニスト団体からも毛嫌いされている。
服とメイクは武装の為にしっかりキメるが食事は無頓着で常連の下町中華屋にしか行かず、男は金で買うセックスだけの関係。しかし心のどこかに脆さもある。

ヒーローともアンチヒーローとも違う、しかし誰よりも物語を先導し状況を打破していくタフで力強い存在。序盤の場面で、お偉い方のおっさんから銃規制反対の女性向けキャンペーンを依頼された際の彼女の哄笑の型破りな気持ち良さ!

こんな「ソーシャル・ネットワーク」のザッカーバーグをよりパワフルにしたような、一つ間違えると感情移入不可能なキャラクターになりかねないスローンをギリギリのラインで観客が心を寄せられる主人公たらしめているのは、スローンを演じるジェシカ・チャスティンの功績が大きい。
彼女の演技力と個性が、スローンを血の通った矛盾と魅力のある人間として成立させている。ジェシカが映画全体の格を押し上げていると言っても過言では無いくらい素晴らしい。

こうした男性からの好感度など一切気にしないクールな女性像を観る事ができたのは本当に愉しくて嬉しい。スピード感だけでなく、そういう点でも『いま』の映画だった。

痛快なクライマックスシーン、それでも痛快だけでは終わらせない刹那の視線の交差。そしてラストシーン。同じジェシカ主演の「ゼロ・ダーク・サーティ」を少し思い出した。
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