あき

女神の見えざる手のあきのレビュー・感想・評価

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
3.4
世の中の仕組みを決めていく政治家。その政治家の判断の裏にある、政治家同士のパワーバランスやお金や世論。そんな裏側の仕組みを熟知して、したたかに世の中を動かしていくロビイスト。ヒロインと呼ぶにはあまりに逞しい主人公のロビイスト、スローンの脳内のように密度の濃い脚本だった。部屋のソファでのんびりしたながら見には向いてなくて、背景や伏線を振り返るために思わず2日続けて鑑賞。

ストーリーの中心は、銃規制法案をめぐるロビイストの闘い。大手ロビー会社の敏腕ロビイストであるスローンに対して、資金が潤沢にある銃擁護派団体から「女性票を取り込みたい」という依頼があったところから物語はスタート。古いおっさん脳で考えた「銃を持つ女性像」売り込みの依頼に対してけちょんけちょんな物言いをしたスローンは、クライアント、そして会社のボス双方を激高させる。タイミングよく逆サイドにいる銃規制法案成立のために戦うロビー会社にスカウトされたスローンは、一部のチームメイトと共に移籍し、法案をめぐる古巣との闘いの火蓋が切られる。

美しいスタイルに、ミニマルで上質なスーツと、高級時計と、細いピンヒール。食欲も性欲も、合理的、効率的に処理するスローン。作品の中には、なぜそうなったか、スローンの胸中に何があるのかは数えるほどしか描かれない。出てくるのは、私の何百倍もの速さで回転してそうな脳で練られた、いくつものパターンの戦略に基づく言葉たち。感情的な振る舞いさえも、ビジネスモードの時にはきっと演出。(ビジネスモードじゃない時間がほとんどないけど…)

ヒリヒリする闘いにあくまで冷静に、でもアグレッシブに、どんどんカードをきっていくスローンのスタイルが格好いい。確か、ロビイストという仕事を描いている作品を私が初めて見たのは「サンキュー・スモーキング」だったんだけど、約15年前のこの映画では、主人公は妻と離婚した敏腕ロビイストで、子供との対話を描いていたコメディだった記憶。時を経て、「女神の見えざる手」ではフォーカスされるロビイストは女性になって、作品の中で「性別」と和訳されていた単語は「gender」と発音されていた。この作品を15年後に振り返る時には、その時代の映画にはどんな世界観が映し出されているのだろうか。
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