真一

そうして私たちはプールに金魚を、の真一のレビュー・感想・評価

4.3
 「金魚400匹プール放流事件」に至る動きを追うことで、少女4人の犯行動機を考察する短編映画です。でも、動機はさっぱり分かりません。そう、彼女たちは、大人には行動原理が理解しがたい中学生なのだ…

 本作品は、謎の生き物「中学生」の生態に焦点を当てています。夏休みの自由研究として提出された、めちゃくちゃ出来の良い観察日誌を観た気分です。

 舞台は、都心から少々離れたところにある埼玉県狭山市。「なーんにもない町。大人になっても、私たちは家とイオンとコンビニと笑笑の往復で一生が終わるんだ」「私たちは生まれた時からゾンビなんだよ」ー。こんな鬱くしいセリフを吐く彼女たちは、なんとも躁状態な日々を送る。

 ソフトクリームを買って食べる。街のヤンキーを観察し、逃げる。「平和IS退屈!」と叫ぶ。「彼氏いねえし」と溜め息をつく。カラオケで「私はいま、生きている~♪」とシャウトする。夏祭りの夜店で金魚すくいをする。そして事件を起こすー。

※以下、ネタバレ含みます。

 とにかく、次の展開が読めません。筋読みをしようとすると、4人にからかわれ、置いてけぼりにされます。

「退屈…親でも死なないかな」
「それ、不謹慎だよ~」

という会話を聞き、現代社会の閉塞感を示唆するシーンか、と推測しつつ筋を追ったのは失敗でした。続いたのは

「フキンシン?」
「なにそれ。チンチ◯?」
「◯ンチン 笑笑笑」

のセリフとバカ笑い。心折られそうです(^-^;

 ありふれた日常のスケッチなのに、恐ろしいほどのスピード感。驚くほどのリアリティー。「理解しよう」とか「けしからん」などという大人のつまらん干渉をよせつけない、中学生パワーがほとばしります。

 秀逸なのは、彼女たちが「プールで金魚が泳げばキレイだと思ったから」という警察への供述内容を明かした上で、その信憑性について、とぼけた顔で「それはどうかな」と漏らす場面です。不条理な現代社会が、彼女たちを事件へ突き動かしたのだろうか。小説「異邦人」の主人公が殺害動機を聞かれ「太陽が眩しかったから」と証言する場面を思い出しました。

 もっとも、意味もない仕事に忙殺され、夜は居酒屋で同僚相手にくだを巻く私たちも、中学生に負けず劣らずの「謎の生き物」ではないでしょうか。「人間はみ~んな同じ」ー。これがテーマかな?お薦めの一本です。
真一

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