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ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣のyukacafeのレビュー・感想・評価

4.0
自己表現とは無縁の業界で仕事をしていることもあって、その人でなければ成立し得ない、唯一無二の存在になれる人達には果てしない憧れがある。中でも、自分の身体を使って感情や情景を表現できるダンサーは、その究極形とも言える存在だ。

しかしこの映画を観て、憧れという簡単な言葉だけでは片付けることのできない、心身ともに極限状態を乗り越えた人達だけが一流になれる厳しい世界の一端を知ることができた。本人にとって、心身ともに完璧なバランスが取れている時期はきっとほんの一瞬で儚いからこそ、その美しさに目を奪われるのかもしれない。

生でバレエの舞台を観たのは、旅先のウィーンで一度しか経験がないが、セルゲイ・ポルーニンのパフォーマンスが群を抜いているのは素人目にも明らかだった。柔軟で均整の取れた身体から繰り出される力強い跳躍と、カリスマ性に溢れた表現力。圧倒的な才能を持つが故のプレッシャーや苦悩は、言葉で説明してわかってもらえる感情ではないからこそ、孤独に苦しみ続けたのだろう。

バレエダンサーの極限と葛藤が描かれていた"Black Swan"を観た時も、フィクションとはわかっていても大きな衝撃を受けたが、本作はセルゲイの人生を長年にわたって追い続けたドキュメンタリーの形式を取っていることで、その説得力は遥かに大きい。観客である私達が観ることができるのは、孤独な闘いを乗り越えた人達の立つ舞台なのだと思うと、これまで以上に尊敬の念を抱かずにはいられない。光と陰を知る存在だからこそ美しく、その魅力に惹かれてしまうのだと思う。

目標を失った時、何をモチベーションにして進んでいくか、というのは私達にも共通する問題で、強制ではなく、内側から湧き出る感情にこそ突き動かされるというセルゲイの言葉にはとても共感できた。
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