石

劇場版 はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~の石のネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

 まず思ったのは、吃驚するほどテンポが早い。湿っぽい話も戯けた話も高速で流れていくので、5分席を外しただけで「こいつら何やってんだ……!?]ってなりかねない。というかなる。原作全8巻を映画2本に収めるにはどうしても性急な展開・ダイジェスト的な作りになるのは仕方ないのかなと思いつつ、この早さこそ主人公・花村紅緒を表しているのかなとも思ったり。

 とにかくこの主人公、コロコロ表情が変わって見ていて楽しい。怒りの気持ちを行動に、またあるときは悲しい気持ちを行動に移していく紅緒は、圧倒的に陰を陽に変えていきます。もちろん楽しくあればあるほど明るく輝いて、だいたい泥酔していきますが、この紅緒というキャラクターが折れることがまず無いんです。愛する人が死してなお、居ても立ってもいられず働きに出るという。切り替えが吃驚するほど早い。やるべき事を見つけることに余念がないんです。"行動的な女性"という以上に"芯のあるひと"という点で魅力的なんですね。とても快活で楽しい人だと、そんな彼女にあらゆる意味であらゆるひとが惹かれていく活劇なんですな。大正時代を背景に、国や家のしがらみを紅緒の型破りな行動力が乗り越えていきます。伊集院忍の言う"ハイカラさん"とは、"時代や風習に新しい風を運ぶひと"という意味があったのかなと。

 勿体無いなと感じたのは、展開が早すぎるあまり感情の積み重ねが気薄になってしまってる点です。紅緒が伊集院家に嫁ぐ腹積もりまで持っていくには大なり小なりエピソードが不十分です。しっかり"なぜこの人であるべきか"を少ない中でも重点的に差し込んでいかないと、今作の印象だと"優しくされたから"とか"彼にも優しい部分があるから"みたいなボンヤリした部分しか見いだせないです。"いつだって「大きらい」は恋のはじまり"はわかりますが、大きらいが変化していって恋になることと、家に嫁ぐ決心を固める愛に変化することって全然違うと思うんです。愛に変わる過程が欲しかったかなと思ったり。
 それと、しっかり「この恋心は……!?」みたいな語りを入れるべきだったかなと。結構今作モノローグが多いんですけど、そういう決定的な恋心みたいなのははぐらかしていたりして。気づいたら泥酔しながら「しゅきぃ〜〜」とか言ってて、あれそんなに忍に惹かれてたっけ?とちょっと疑問に思うところがありつつ、あっという間に伊集院家一筋になってたりして。モノローグで語らない話作りならいいですよ、そういう絵で伝える作品は沢山あります。でも今作はモノローグ盛々でしょ。そういう作品作りしてるならちゃんとどの場面でも語らせなきゃ。混乱するので統一したほうが良いかなと思ったり。

 原作者からの要望で絵柄を今風に変えたそうです。でも今回の絵柄どうでしょう、むしろ古いような感じも見受けられます。今風ってもっと目が小さくて顔が丸っこくてみたいな感じかなとか思ったり。私はいっそ原作の絵柄を今のアニメーションで見たかったかなと。と言いつつ、別に鑑賞時に目に障るとかそういうことも無し。ギャグ顔でバリバリ崩れるので、そのギャップで笑えるところが多々ありました。ただ、今作以上に細やかでメリハリのあるアニメ映画って山ほどあるので、今作のアニメーションがクオリティが高いかと言われると悩みどころ。悪くはないけれども、TVアニメぐらいな印象。「東京の夕焼けが綺羅びやかで〜」とか言ってるところで共感出来るほどの絵は映らない。そういうところを期待する作品ではないかも。

 前半なので覚悟してましたが、凄いところでバツーンッ!と切れるんですね。新聞社で働き始めてからの速度が尋常じゃなかったけども、むしろそこまでやってくれて良かったかも。悲しいだけで終わる紅緒じゃないところが"らしさ"なのかなと。凄く続き気になるんですけど、この機会に原作本集めてみるのもいいかも。

 花村紅緒そのひとが楽しくも愛おしい話でした。続き楽しみです。
石