長さそれぞれの全6パート。おかしな衣装を着た男女がバスタブではしゃぐ無邪気な1パート目に始まり、なにやらドラマを感じさせるパートや、ホームビデオ風のパートなど。その中で、2パート目『They Stopped to Think』がこの作品から受ける印象を決定づける。映像自体は、一人の女性が椅子を持ってトタンの壁際でよくわからないことをしているだけなのだが、そこにケン・ジェイコブス自身の声が被さる。この映画に出演している人たちとの関わりについて、「彼らとはもう会わなくなってしまった」「どこにいるかもわからない」と淡々と語るのだ(YouTubeの字幕起こしありがとう)。それを聞くと、全てが何か特別な美しい瞬間のように思えてくるのだった。

記憶なし

ドキュメント的に即興で撮影していたであろう『Orchard street』を経て、出演者に演出を施しつつも、非常に生々しく姿を捉えた今作はその後の『The Sky Socialist』へ至るまでの習作のように思われる。面白いのは、『The Sky Socialist』が出演者たちの発話や導線をズタズタに切り離しながら新たに物語を立ち上げてしまうのに対して（その手法は『Tom,Tom,Piper's son』で決定的になる）、今作では出演者たちの動きは比較的に持続の中で捉えられているように思われるところだ。生々しい姿が映っているように感じられる要因も恐らくこの姿勢に由来する。