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残像のseriFilのレビュー・感想・評価

残像(2016年製作の映画)
3.9
国家に従うのか、それとも抵抗を続けるのかという意味で「どっち側だ?」と問いただされた主人公はこう答える。「自分の側だ」。
全体主義に突き進むポーランド政府の執拗な圧力に対して「転向」を拒み続けたまま屈辱的に死んでいった芸術家ストゥシェミンスキ。国を染め上げた全体主義の色は、補色(色相環の対角の色)である「個人の自由」の色も同時に際立たせた。それが「残像」なんだろう。
とてもシンプルな物語だがこの映画を深いものにしているのは、「支配」を普遍的な問題にした点ではないか。ストゥシェミンスキが別居していた娘ニカに彼女の宗教を尋ねるシーンがある。ストゥシェミンスキはニカが国威発揚的な学校に馴染んでいく様子が苦々しい。しかし「子ども」は生まれる国を選べないし自分が所属するその社会の中での承認欲求は自然なことだ。のみならず「子ども」は親も選べない。つまり国家の支配を問題にするだけでなく、人間には逃れ難く加担してしまう「支配」があるというそのことに、ワイダ監督はストゥシェミンスキを一瞬呆然とさせるのである。
ストゥシェミンスキという芸術家は知らなかったがセザンヌあたりの近代絵画のような色調に黄色や赤の原色を放り込んだ映像がとてもかっこよく、アヴァンギャルドと言われていた彼の作品世界にヨせているんだろうと想像した。
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