JIZE

グッバイ・クリストファー・ロビンのJIZEのレビュー・感想・評価

3.9
英国のアッシュダウンの森に連なる地を舞台にした名作の影に隠された父親と息子の愛情を紡ぎだす。無垢なぬいぐるみのクマに翻弄された作者の息子が辿る心の機微が繊細に映し出されていた。また童謡小説の古典を生み出した人間が抱える闇を西部戦線を経た戦争の緊張感と純真な子供のような輝きを織り込みつつ真実が描かれている。親子の密接な親睦に涙する童話調を縦軸に作風は豊かで奥ゆかしい作品だ。

戦争から帰還した父親ミルンが風船の破裂音に敏感な反応を示したり"書かない作家"と称された厳格なその素性はいかに家系の規律を重んじる人物なのかを思い起こさせる。また本作は本流のお気楽なプーさん,臆病なピグレット,攻撃的なティガー,悲観的なイーヨーの個性を夫妻と息子で別個に分離させた設定も粋で巧妙である。問題や葛藤を抱える壮絶な闇の背景に対して日が照らし続ける景色の恍惚感も見所に感じた。

この作品を観た後だと温情味ある児童小説の名作"くまのプーさん"の見方が少し変わります。
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