たわける

オリエント急行殺人事件のたわけるのネタバレレビュー・内容・結末

オリエント急行殺人事件(2017年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

74年公開版を観ていて
こちらも期待していたのですが、
なかなか面白かったです!

ただし改変によるラストへの盛り上がり不足は
『オリエント急行の殺人』
というタイトルを掲げる作品が未来永劫持つべき純粋な面白さを削いでしまっていたし、
あの乗客全員が、それぞれの人生の中で
アームストロング家の悲劇によって
等しく取り返しのつかないものを失い、
癒えぬ傷、消えぬ恨みを抱くに至り
今ここにいるってのを伝えきれてない。
何のためにリメイクしたんだろうという思いがめちゃ残ります。


秘密も過去も根掘り葉掘り暴くのは
ポワロの推理における探偵としての矜持から来る容赦なさ故で、
灰色の脳の恐るべき明晰さは
12の刺し傷に込められたそれぞれ恨みの深さ、
それぞれが抱える途方も無い無念さまでも露わにしますが、
だからこそ、その無念さの主たちの罪を暴き、
刑務所送りにすべきなのか、
人間と探偵の間で苦しむという所。

”憐憫”やそれに伴う妥協は
ポワロが探偵として唾棄すべきとしているものなのに、
探偵として優秀すぎるがゆえにそれを痛いほど理解してしまい(しかも同時に12人分)
逆に己自身がそれについに揺り動かされてしまう、
12人全員を見逃す事に繋がる…。

その想定外に揺れる想いを描くことが
この作品の残酷とも言える面白さのに、
全然描けていない。
『情に流される』という一見楽そうな選択は、
ポワロにとっては誇りも捨て去った上で
断腸の思いでようやく至れるわけで。

そして、謎解きのシーンで
『最後の晩餐』の様に横一列に並べられた容疑者全員が
観念したからこそ浮かべる、
悲しみや悔恨をあからさまに含んだ視線を
一身に受ける覚悟を試したのではないのか。
脳内ではすでに全てを解き明かした上で、
己が情に負けるかもしれないと理解した上で
探偵として自分がそれを受け止められるのかと。

結果、ポワロもあの誘拐殺人によって傷ついた。
そしてこのリメイクは
そういった切なすぎるプロットを描くのがあまりに強引で、
結局ぼんやりになってしまっていると思いました。


でも各キャストの演技には心動かされました。
ウィレム・デフォーの絶望の先を生きてるだけだと言いたげな眼差しも忘れられない。
全員が真心からその犯行に及んでるのはもう知ってますし。
ただ、だからこそやっぱりそこを知性によって暴き出す様を
しっかり描いて欲しかったなあと。
たわける

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