Jeffrey

台北ストーリーのJeffreyのレビュー・感想・評価

台北ストーリー(1985年製作の映画)
5.0
「台北ストーリー」( 青梅竹馬)

冒頭、ガラス張りの無機質な高層ビル。大通りの車両の混沌とした動き、富士フイルムの大看板の強烈なネオンの放射、イルミネーションに彩られた夜の街をバイクで疾走する若者達、総統府、不動産、解雇、野球仲間。今、男女二人の物語が始まる…本作は楊徳昌(エドワード・ヤン)が一九八五年に監督し、日本国内では二〇一七年に初上映され、当時渋谷まで劇場に足を運んだことを思い出す。今回台湾特集をYouTubeにてするため久々にBDにて鑑賞したが大傑作、というか彼の作品の中でダントツに好きだ。主演は台湾ニューウェーブの巨匠、侯孝賢が務め、音楽はヨーヨー・マが担当している。本作は台湾ではわずか数日で打ち切りになり、ロカルノ国際映画祭などでは賞を受賞した幻の映画と言っていいだろう(日本において)。

ヤンの作品を人生で最初に見たのが台湾ニューシネマの源流の二つある中の一つ「光陰的故事」である。某レンタルショップに置いてあったそのオムニバス映画をふと手に取り鑑賞したのが彼の作品に触れた最初である。きっかけは、自分の癖である。最新作となっているコーナーを片っ端からレンタルして、その中にたまたま偶然入っていたのが四人の監督によるオムニバス映画である。その中の第二話「指望」これこそがエドワード・ヤン監督の短編であった。そして私のエドワード・ヤンとの最初の出会いでもあった。先ほど源流が二つあると言ったが、もう一つは候孝賢率いる三人の監督によるオムニバス「坊やの人形」である。

次に見たのが同じくレンタル化された長編三本目の「恐怖分子」である。これを観たことにより、ヤンの大ファンになったのだ。あの有名な場面を言うとミーハーと思われるかもしれないが、やはり言及したくなるのだが、あの数枚の紙ペラを壁に貼り付け、風に靡くあのワンシーン…あれに魅了されたのである。そして、劇場公開された「 牯嶺街少年殺人事件」を角川シネマで初鑑賞し、渋谷ユーロスペースで本作を見たのである。そういった順番で彼の作品を網羅していった。私は気に入った作品でも基本的に昔よりかはパンフレットを購入しなくなった。ところが彼の作品を見て久々に買おうと思って購入しようとしたが、どちらも全て売り切れであった。当時、オークションでプレスシートをなんとか入手して色々と読み漁ると、まだ台湾映画に疎かった自分には色々と刺激的な制作秘話だったり、エドワード・ヤン監督と侯孝賢監督のいきさつ、過去の作品など様々なことを知れた。

本作の"台北ストーリー"で言うならば、主演が候孝賢でその相手役のツァイ・チンが後のヤン監督の妻になる人だと言うことも知れた。そして彼女が人気シンガーであり「恐怖分子」の主題歌を歌っている事まで知れた。候孝賢が盟友エドワード・ヤンのために六〇〇万元を借金をして製作費を作ったと言うことも知れた。そして長年日本で公開されなかった「台北ストーリー」が幻の傑作であることも知れたのだ。そして今回三度目の鑑賞をしたが本当に傑作だなと感じる。何が傑作なんだ…と言われると、一言"全てだ"と単純明快に言いたいが、それではこの映画の良さが伝わらないだろう。見所、画作り、ノスタルジック、変貌を遂げる大都市、歴史的な門屋街の街並み、それらが全てを超越する。




さて、物語はここは台北市内のとあるマンションの空き家。そこに二人の男女が訪れる。女はステレオをあそこに、テレビはここにと空っぽの空間で夢を膨らませている。男はやる気のない様子でバッティングの素振りのフォームをしながら内装に金がかかりそうだとぼやく。女は今度昇進するから大丈夫と一言。彼女は不動産デベロッパーで働くキャリアウーマンである。男は少年時代はリトルリーグのエースとして将来を期待されていたが、今は布地門屋で働く。二人の名前はアジン(女)とアリョン(男)。幼なじみで、過去にはそれぞれ色々とあったようだが、気が進むまま付き合いが続いている関係だ。突然、アジンは解雇される。居場所を見失った彼女は男の義理の兄を頼って米国に移住し新たな生活を築こうとアリョンに話を持ちかける。だが、男は踏ん切りがつかないようだ。この場所には長年の野球仲間がいて、家業もあると言う…徐々に二人の間にある過去の出来事が重なり、やがて思いもよらない結末が彼らに訪れる…。

本作は冒頭に、郊外の空き家に二人の男女がたたずむ。男は手を組みベランダの大型窓ガラスから外を眺める。女はヒールの音を立てながらサングラスをかけ、スーツ姿でビデオデッキ、ステレオ、ラジオなどをここに置くと部屋を回りながら口ずさむ。一方、男はタバコを出ながらバッティングの素振りをする。カメラは二人を捉える。男は金がかかりそうだと言う。女は私が半分出すと答える。男は鼻歌をする。女はこの部屋はどう?と聞き男は悪くないと言う。カメラは冒頭の空き家の窓ガラスを真っ正面から固定ショットする(ここでバイオリンの音楽が流れる)。そしてタイトルが現れる(さらにいくつかのカット割りが重なる)。

続いて、チャイムの音が鳴る。女が扉を開け帽子をかぶった男性を中に入れる。女は鏡を見ながら顔の表情を整え化粧台の上に置いてある散乱したメガネ(サングラスもある)の中の一つを選びカットは部屋の出入り口の扉をとらえる。続いて、女の頬杖のクローズアップ、オフィスの電話が鳴り女が電話を取る。オフィス内を歩く女の動きに合わせてカメラが左へとスライドする。そして五人のスーツ姿の男を一瞬捉え、女が上司らしき男の部屋に入る。二人はショーウインドーから彼らを除く。その男は仕事終わりにビールでも飲まないかと誘うが、女は残業しなくてはと言う。

カットが変わり、ビルの吹き抜けの巨大な廊下を歩く二人を引きに撮る。そしてカメラはビルの最上階から台北の街並みをとらえて数々のビル街がフレームインされる。カットは変わり、冒頭の男(アリョン)が真っ赤な車を運転している場面に変わる。彼はライと言う野球のコーチの男性に交通渋滞で遅れましたと言い、カメラは二人の横顔寄りに撮る。そして会話が始まる。そして少年野球をカメラが捉える。アリョンは柵越しに子供たちに体がカチコチだぞとアドバイスをする。不意にカメラは上空を飛ぶ飛行機をとらえる。カットは変わり、オフィスビル回転式ドアから女(アジン)が外に出で立ち止まり外を眺める。それから歩き出す。するとアリョンが車の中からアジンと呼び、手でこっちへ来いと合図する。女は交通量の多い道路をなんとか渡る。

続いて、アリョンの車の中へ。カメラは後部座席から助手席と運転席に座っている二人を捉える。カットは古い写真を何枚かめくる女の手のクローズショットが捉えられる。その日の夜。アリョンとアジンともう一人アリョンの仕事関係者の男と三人で食事をする。アジンはここに泊まる。すると女友達がやってきて、彼女にお金を貸して欲しいと言う。彼女がペプシの動く玩具をテーブルに置き動かし二人は笑う。カメラはそれをクローズアップする。カットが変わり、オフィスで上司から今後のいきさつを話され、彼女は半ば解雇される(自ら辞めていく形だが)。続いて、一人帰宅するアジン。ノートにペンで数字を書く。そして固定電話でメイと言う会社の同僚に電話するが留守番である。

カットが変わり、彼女が部屋の一室で足の運動(エアロビクス)をやっているのを捉える。カメラは彼女の横顔をクローズアップ、台北の夕焼けに染まる街並みを映す。その日の夜、アジンはテレビでニュースを見ながら固定電話で誰かに電話をする。だが電話は取られずに、彼女は静かに受話器を下ろす。カットは変わり、夜の台北の街へ。歌謡曲が流れるスナックにアリョンがくる。そしてママさんビールを頼む。他の客はマイクを手に持ちカラオケをしている。そのバックには銀座カラオケと言う日本語で書いてある。カットは彼女のオフィスへ。ノックが聞こえ、同僚と会話をする。男はビールでも飲もうかと言うが、女はまたビール、それは口癖なのと言う。アジンは私はお腹がすいたわと言う。カットは変わり、アリョンが自宅へ帰宅する。彼は電気をつけてまた消す。

カメラは、外から窓越しに彼が部屋を動く描写を撮る。そしてアジンと会社の同僚の男と屋台でご飯を食べている描写に変わる。料理が運ばれた瞬間、その同僚が自宅へと帰宅する場面になり、奥さんがご飯を作っていた。会話の中から彼らには子供がいるようだ。カメラは寝室で二人が横になり(奥さんは本を読んでいるが電気を消してすぐ横になる)蚊がいると奥さんがまた電気をつけ、ベッドから立ち上がる。するとスプレーの音だけが寝室で聞こえ、カメラは男の表情をとらえる。カットはアジンがエレベーターから出てきて部屋に戻るシーンへと変わる。すると米国の野球中継を見ているアリョンがベッドでくつろいでいる。女は会話をせずに、洗面台に行き化粧を落とし部屋着に着替えて彼の隣に座る。カメラは彼らの背中を捉える。すると女は男の肩に横たわる。会話が始まる。

続いて、彼女が彼に失業した事を伝える。男は辞めたのか、それとも解雇かと聞く。カットは変わり、リビングで女は座り男は立ちながらその件について語り合っているのを部屋をまるまるフレームインさせた構図でとらえる。彼は義兄が米国で黒人を拳銃で撃ったことを話す。アメリカでは有色人種は家を持てないが、金にものを言わせて台湾人が徐々に進出していることも伝える。男は米国では敷地内に人が入れば問答無用で拳銃で射殺されることも伝える。カメラはマリリン・モンローのカレンダーを背景にアリョンを映す。次にタバコを吸いながらアジンが語るクローズアップ、カットは西洋式の建物を捉える。チマキはいかがですかと言う声だけが聞こえてくる。

続いて、アリョンが煙草を吸いながら本を読んでいる場面へ、アジンがカフェで今後の方針を知り合いの女性に話をしている。続いて立ち入り禁止の張り紙が貼られている落書きだらけのビルの中へ入っていくアジンはアリン入る?と彼女の男友達に聞く。すると富士フイルムの看板が見えるビルの屋上で二人は会話をする(アリンとは途中で出てきたお金を貸してくれないと言ってきた女性である)。続いて、アリョンの会社仲間の男性が囲碁的な遊びをしている場面へ。すると男は彼にひと月分だけでいいから金を貸してくれと言うが、自分も今厳しいと答える。カットは、彼が車の運転をしている描写へ変わる。そうすると後ろのタクシーがクラクションを鳴らしてくる。アリョンは追突されてイライラしながら車から降りて男に絡もうとするが知り合いだったそうで、二人は知り合いの宅で会話をする。カメラは一瞬、子供を捉える。アリョンは帰り際に見かねて男のポッケにお金を入れて子供に何か買ってやれと言う。



続いて、アリョンはおばあちゃんにとにかく日本は面白くて素敵なものがたくさんあって渋谷などに行ってみたいことを話す。カットは変わり、アジンが金銭面に苦労している自分の母にお金を渡す。母親はバスに乗り立ち去る。カットは賑やかな一風変ったパブのような所へと変わる。そこには会社の同僚だろうか、数人の男女と楽しくお酒を飲みながら笑顔でいるアジンの姿がある。そこへアリョンもやってくる。彼女は一人一人紹介する。そして名刺交換をする。なぞなぞゲームを楽しむ。アリョンは席を外し、トイレへ。ようを済ませるとパブにあるダーツを楽しむ。そこへ彼女の同僚の男性がひと勝負しようと言う。その男が少年野球を馬鹿にしたことによって彼は激怒し店の中で暴力がなされる。

その日の夜。帰宅したアリョンとアジン。男は洗面台で腫れ上がった顔を見ながら手を洗う。女は静かにベッドに座る。男は彼女の隣に座り、学生時代の喧嘩を思い出した?と一言。女は彼の肩に顔を埋める。男はアメリカに行こうか、この家を売ろうと思うと話す。カットが変わり、殺風景な部屋の中でヤンと言う男とアリョンが室内でキャッチボールをしている。ヤンがボールを強く投げたことによって窓ガラスが割れる。カットは一瞬アジンが眼鏡をかけて読書する場面をとられた後に、公園にウォークマンを聴いているアリンを映す。そして野球少年の試合にアリョンとタクシー運転手の友達の男性と一緒に観戦している場面へ変わる。

続いて、アリョンらの自宅にアリンとその男友達二人が食事をしている。そこへ彼女の会社の同僚の男性から一本の電話が来て会わないかと言う。彼女はこの時間まで残業していたのと聞く。カットは変わり、アリョンがアジンの父親が借金で困っているところに遭遇してお金を貸してしまう。それに彼女が父親になんで金を貸したの、彼は経営ができない人なのと二人は口喧嘩する。続いて、アグワンと言う女性とアリョンが東京で密会していたことに怒るアジンが彼の頬を平手打ちする。彼はアパートから出て行く。彼女は彼の荷物を階段に捨てる。男はゆっくりと階段を上って様子を見る。

カットは変わり、スナックへ来たアリョン。彼はタバコを吸いながらトランプゲームで他の客らと賭け事をする。その間ー人の女性がカラオケを歌っている。アリョンは負け、車で補うと言う。カメラは夜な夜な道路を酔っ払いながら歩く彼を引きに撮り、タクシーが過ぎ去ったのを観た彼は止まれといい、アリョンは走り出す。だが追いつかずに途中で歩きながら吐息だけが聞こえてくる。翌日、アジンがサングラスをかけて街を歩いている描写に変わる。彼女は立ち入り禁止の落書きの廃墟のビルへやってくる。彼女はそこにいた一人の男性にアリンはいる?と聞くが頭を横に振る。すると彼女はその場に座り彼と会話をする(彼は一言もしゃべらず一方的に彼女が話す)。

続いて、海が見える絶景の丘にその学生とバイクに乗り来たアジン。カメラは田舎町を疾走するバイクを前方から捉える。カットは変わりその夜。若者たちによる誕生日会が行われる。そこにはアリンとアジンの姿が。薄暗い部屋の中で騒ぎながらケーキに蝋燭を灯し、窓から外に見える富士フイルムの大看板のネオンが鮮やかに輝きを放っている。ノスタルジックな音楽と共に夜景の台北をカメラはあらゆる角度で捉える。バルコニーから富士フイルムをバックにした夜景に先程の学生がやってきて、彼女に自分の革ジャンを羽織らせる。カメラは地上の交通を映す。

カットは変わり、アリョンがタクシー運転手の友達の家でつまみを食べながら彼の相談を聞いている。どうやら黙って女房がいなくなったそうだ。彼は泣いている。アリョンは泣くな、どうってことないと言う。彼はぴしっとさせるためにその友人を大声で立てと言い、その迫力に子供が泣いてしまう。カットは、昨夜の誕生日会の部屋へと変わる。みんなが雑魚寝で寝ている。アジンが一人起きる。カットはすぐに夜の場面へ変わる。台湾総統府前を若者たちがバイクで疾走する。そこにはアジンの姿もある。ネオンで飾られたアジア伝統の様式を保つ風貌の建築物がフレームに入る。途中でフットルースの名曲が流れ、クラブで踊る若者たちが捉えられる。それを遠くから座りながら眺めるアジン。途中で停電して手に持っていたライターで火を付け明かりがわりにする。すると電気は回復して再度フットルースの音楽でノリノリに踊る。

続いて、アジンの部屋へ。彼女はまた電話でメイさんに連絡を取るがなかなかタイミングが合わず電話が出れない。カットは変わり、アリョンが不満をぶちまけながら電話をしている。カメラは街の風景を撮る。カメラはタクシーに乗るアジンをショットする。季節はクリスマスだろうか、ジングルベルの音楽が鳴る夜の街を一人で歩く彼女。遠くから止まっているバイクの上に座りタバコを吸っているあの学生を見つめる。カットはスナックへ。彼女はアリョンにカラオケのスナックにいるから迎えに来てと電話をする(留守番電話に)。

カットが変わり、アリョンがアジンの父親と部屋で話している。彼は酒をおごりますよ、行きましょうと言うが父親はため息をつく。結局二人は店ではなく、ホテルの外玄関で座りながら会話をする。父親は酔っ払っているようだ。カメラは何カットか街を捉える。やがて、アリョンとアジンは共に部屋へ帰宅する…やがて物語は悲劇的な事件と共に幕を下す…と簡単に説明するとこんな感じで、久々に再鑑賞したが超絶傑作である。あのクライマックスのアメリカパソコン教室のがら空きの部屋でカメラがスライドするのだが、その時に白いスーツに身を包みパンツのポッケに手を入れているアジンの佇まいのスタイリッシュさと言ったらカッコよすぎる。




いゃ〜、超絶極上大傑作である。こういった漢字を羅列してオーバーに絶賛したいほどだ。かつて、ここまで台北と言う都市を美しく撮った作品があっただろうか、かつて台湾総統府の前をバイクで疾走する美しいネオンと若者らをフレームに取り入れた映画があっただろうか、それか奇跡が偶然起こったのか、当時の台湾は戒厳令下の真っ只中で、総統府の前を走る事は禁じられていたそうだ。そういった中、作家魂が勇気を与えたのか一か八かのアクションを仕掛けたって言うわけである。これが詩的な映像を与えてくれた奇跡の出来事であり瞬間である。

アリンが部屋の中で日本のコマーシャル(しかもそのコマーシャルが懐かしい)を必死に見ている場面や、おじいちゃまと呼んでと言う日本語が飛び交ったり、小林、東京と言う単語まで出てくるのは日本人としてはなんだか面白く感じる。あの富士フイルムの大看板のネオンを実は昼間に一瞬風景を捉えている場面で映るのだがみんなは気づいただろうか。やはり、あの中山北路にある富士フイルムの看板が設置されている交差点のビル屋上には行ってみたいものだ。とにもかくにも最高の瞬間がありすぎる映画である。まさに人生ベストだ。
Jeffrey

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