ケンシューイ

台北ストーリーのケンシューイのレビュー・感想・評価

台北ストーリー(1985年製作の映画)
4.1
1週間で3回も観ることになってしまった。この監督の持ってるエネルギーが強大すぎて、最初観たときにはただ打ちのめされただけで終わってしまった。とにかく映像の説得力に圧倒させられた。
幼馴染みの男女が付かず離れずで煮え切らない。この物語の根底には台湾という国の中で生きている人々の暮らし向きが映されている。そしてこの時代の台湾が見ていたアメリカや日本の影響があって、そこから作られた独自の文化が背景にある。先へ行くべきなのか止まっているべきなのかこの2人の生き方の迷いが、社会的でありながらも個人的でもあって、生々しく現実的な人間の姿をありのままにというふうに見えた。
短期間に何回も観たから当たり前かもしれないけど、この映画は繰り返し観るほどに味が増してくる。ただし、面白い映画だとは思わなかった。
一見すると何でもなさそうなシーンの連続だけど、その一つ一つには意味を感じさせられてしまう。冒頭の家探しのように見えるシーンからしてそれはそうだった。蚊がいるってのはクスッと笑えた。自主映画のような唐突で素朴な雰囲気がちょっとあるのに、個性的で何でこんなアングルから撮ってるのっていうアートなところもある。この映画に近づこうとすればするほど全体が見えなくなっていく。
それからやっぱりあのタバコが味を決めてる。しつこいくらいに印象的。どうしても紙巻きタバコの煙は絵になってしまう。これがもしもアイコスとかだったらあんなふうには感情は引き出されないんだろうなと思いながら、気付けばもうこの倦怠感に包み込まれていた。
監督がこの映画の中で言いたい事というよりも、この当時の台湾が外の世界に向かっていくべき姿勢みたいなものがヒシヒシと伝わってくる作品だった。