akqny

サーミの血のakqnyのレビュー・感想・評価

サーミの血(2016年製作の映画)
4.8
スウェーデンの人種問題を描いた作品。美しい大自然と対比して描かれる情景は正直見るのが辛い。

同じスウェーデンを舞台にした映画、ミッドサマーを映画評論家の町山智浩さんがラジオで解説していて、それが大変興味深かったので下記。

我々は北欧と聞くと先進国の中でも福祉、教育、医療、文化芸術、経済所得、環境、人権やジェンダー、マイノリティなど、どこを取っても優等生な国々で、優れたモダニズム建築や工業デザインを残してきたために先進国のお手本として「新しさ」とか「洗練潔白としたもの」を求めてしまう。でも北欧の国々はほんの数百年前までは文化というものは、新しさとはむしろ逆の、伝統的なやり方、ジプシーのような生活やハンドメイドな方法が主流の土地であったようで、突出して何かを評価されたわけではなかった。
モダニズムはそうした西洋文明の下地が乏しい空白があったからこそ、従来のクラフトマンシップや自然素材と融合し、1950年代から絶賛されるようになる。
またミッドサマーはそうした昔から地方に続く夏至祭に、いわゆる現代的感性との乖離をミステリアスに描いた作品だと述べられていた。

この作品でもそうしたスカンジナビア北部に住む先住民のサーミ人へのかつての同和政策を通して、いわゆる人権やマイノリティへの問題を投げかけている。

学校では皆の模範となりサーミのプライドもあったエレ・マリャが、周りから白い目で見られ辱めを受けることを通して、逆に自らのルーツを否定してしまうのは本当に辛く、特に臭いを気にして湖で必死に髪と身体を洗うシーンは耐えられなかった。
彼女が悪いのではなく、マイノリティに無意識の圧をかけてしまう社会が原因であるり、それを解決するためには一人一人が知るということが最も大事だと思う。


翻って、日本も過去にそうした同和政策は何回も行なってきた結果今があることはゆめゆめ忘れないでいたい。
日本は単一民族国家だとかなんとかほざく政治家がいますが、アイヌや琉球、かつては蝦夷や隼人と呼ばれ虐げられた人々がいて、二度の戦争でアジア各国から連れてこられた人々がいて、現地で同和政策を受けた人々がいて、そうして今のこの国がある。物事はそう単純じゃないし、これからの人口減少の時代、そうした複雑さこそが重要になると思うから。
akqny

akqny