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ハローグッバイのこのレビュー・感想・評価

ハローグッバイ(2016年製作の映画)
4.0
1回目観た時は眠い中観たこともあって、「やっぱ菊地監督の良ささっぱり分かんね~」と思ったけど(1作目の『ディアーディアー』がやたらと撮影や演出の上手さばかりチラついて、ちっとも面白いと思えなかった。助監督経験長いしそれは当たり前やん的な)、見直してみたらとても良くて沁みた。年間ベストには僕は入らないと思うし「大傑作!」とは思わないけど、「いい映画観たわ~」と素直に思える映画だと思う。

お話自体はどっかで聞いたことのあるようなものの寄せ集め。同じ学校のクラスメイトだけど「住んでる世界が違う」女子高生2人が、認知症のおばあちゃんとの出会いをきっかけに交わり、ちょっとした冒険に繰り出す、という。なので話自体に別段面白みとか斬新さはないし、この内容で120分とかだったら冗長すぎるしあともう1個エピソード入れろよってなる。だから約80分という長さも納得。

この映画の肝はやはり1つ1つの描写の濃さでしょう。あおいの表情、はづきのセリフ、悦子さんの歩き方1つ1つがこの物語にずっしりと生身の人間たちの重みを載せてくれている。登場人物自体少ないわけだけど、メインキャスト3人の存在感が素晴らしいです。
悦子さん役のもたいまさこは、もう当たり前っちゃ当たり前なんだけど本当に上手くて、認知症のおばあちゃんの危なっかしさとか、記憶がなくなっちゃって「悦子さんだけど私たちの知ってる悦子さんじゃない」あの感じとか。
1回目観た時は悦子さんのパワーが強すぎてそればっかりに気を取られたけど、荻原みのりと久保田紗友のすごさに改めて驚嘆。この2人のシーン、ほんまにええシーンばっかりなんですよね。個人的にお気に入りは葵家でのケンカのシーン。検査薬を投げつけて「怖いんでしょ、ほんとのこと知るのが」的なことを葵が言って、「は?」ってはづきが返す。この時の2人の顔がすごい。お互い普段なら絶対に他人に見せないような顔になっていて、特に葵の方は優等生的な面影がごっそり取れて、もうとてつもなく怖い。若いが故の凶暴性的なものが剥き出しになっている気がした。この2人のシーンはええとこしかないと思うんですけど、LINE交換しないのが一番いいよね!って思った(笑)

あと、1つ1つの小道具とか演出がほんとに上手くて、これはやっぱ助監督歴が長くて映画の現場をよく知っていて、良い映画とは何ぞやというのを肌身に沁みて分かっているであろう菊地監督だから出来るんだろうなと。長編2作目にしては、何もかも上手すぎますよ(笑)でもそれが「期待の天才登場!」みたいな紹介されないのは、もちろん経歴や年齢的なものもあるけど、まあ言えば「手堅い」しっかりした映画を撮ってるからなんでしょう。特に印象的だったのははづきのLINEのシーン。どんどん来る通知を複数のモノローグに重ねて、スマホ上でのやり取りのしんどさみたいなものをああいう風に表現したのはちょっと観たことなくて、大発明でもないけどちょっと新しいなと思った(『この世界の片隅に』ですずさんが右手を失った時に出てくる大量のモノローグシーンを思い出した)。あと、最後葵とはづきが悦子さんをお家に連れ帰った時に渡辺真紀子からお茶を出してもらった時の2人それぞれの反応。葵が「すみません」ではづきが「ありがとうございます」。これだけで2人の違いが端的に表現されていて、やっぱ上手いな~と。

とにかく、やっぱ女子高生に観てほしい映画ですね。そんで2人とかで来てとぼとぼ帰り道でボソボソ喋ってほしい(笑)

最後に、菊地監督って1つの小さな話をじっくり描く方が向いてるというか、得意なのかなと思いました。撮影も、やたらとカメラ切り替えたりせずにじっくり撮る、そっちの方が僕は好きだなと。『ディアーディアー』はちょっと登場人物が多かったりそれぞれの色んなバックボーンからなる話がそれなりに複雑に絡み合ってたし、撮影も後半とかカメラワークがせわしなかったりして、個人的には『ハローグッバイ』観た後だと特にそういう詰込み系の映画はいいんじゃないかなと。良く言うとしっかりとした手堅い映画を撮るという印象で、悪く言うとあんまり遊び心とか、映画のバランスさえ崩しかねないようなネタを突っ込んだりしない人って感じです。
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