マインド亀

Dominion: Prequel to the Exorcist(原題)のマインド亀のレビュー・感想・評価

3.5
『エクソシスト ビギニング』と『ドミニオン』、映画の作り方が垣間見える双子作品

※今回は『エクソシスト ビギニング』と『ドミニオン』の作品の性質上比較しながらのレビューになりますので、両作品とも同じレビューです。

●ポール・シュレイダーの『カードカウンター』を鑑賞後、『魂のゆくえ』以外に配信で観られる作品がないかなぁと思って探して観られたのが『ドミニオン』。ところがこの作品、大傑作『エクソシスト』のメリン神父の前日譚として作られたのが、配給会社の不評を買ってお蔵入り。慌てて作り直されたのが、『ダイ・ハード』や『クリフ・ハンガー』などのアクション大作の巨匠レニー・ハーリンの『エクソシスト ビギニング』。その両方がNetflixで見られることが分かり、両作品とも一気見することにしたのですが、ほぼ同じキャスト、ストーリーのベースライン、セット、素材を使っているのに全く違う作品に仕上がっているため、両作品のアプローチの仕方を比較して観ると、映画製作についてとても勉強になるので非常に面白かったです。
ただし、どちらも成功した作品とは言い難いため、成功例、失敗例、という見方はできませんが。

●前述の通り、両作品とも、巨匠ウィリアム・フリードキン監督の、大傑作ホラー『エクソシスト』の前日譚であるため、『2』『3』が失敗していたことを考えると、それにチャレンジしている時点でなかなかの負け戦と言っても過言ではなく、それでもこの作品にチャレンジした両監督は称えられるべきであり、貶すべきでは無いと思っています。
で、出来はと言うと、両作品ともそれぞれ足りないところを補う部分が対象的にそれぞれにあって、それらが両極端なので、正直ミックスしてほしかった気もするのです。
それぞれについて比較しながらレビューいたします。ネタバレありなので、ご注意ください。




━━━━ネタバレ━━━━


ポール・シュレイダー版『ドミニオン』について

●こちらのポール・シュレイダー版のメリン神父は、紛れもなくポール・シュレイダーバースの住人であり、ナチスによって命の選別に加担させられたその罪を背負いながら生きている神に仕えた神父の話。そう、神を信じなくなった、元々の敬虔な信者といえば、厳格なカルヴァン主義を信仰する家庭で育ったポール・シュレイダー自身の話なのです。なので、中盤までは、リアルな教会、そして人間の内面の話が極めてリアルなトーンで、順序立てて丁寧に描かれます。なので比較的人間ドラマが面白く、リアルさを追求したという部分では、こちらの作品のほうが面白くてリアルで、『エクソシスト』っぽい(CGのクオリティーは置いといて)と思いました。
ただし、こうなってくると無理やり超常現象っぽい部分や、何でもかんでも悪魔のせいにする感じにしなくてもいいかなぁ、って思ってしまうのですが、流石にそうはいかないため、なんとも中途半端に終わってしまった気がします。

●なにより、予算が打ち切られたせいなのかもしれませんが、肝心の悪魔祓いが面白くなくあっさりしていて、中盤までの盛り上がりが急激にしぼんでしまっているのです。現地住民とイギリス軍との衝突も、悪魔祓いと並行して盛り上がるところだったのですが、悪魔祓いが終わるとあっさり衝突がなかったかのようになり、はっきり言って衝突の結果どうなったのか全くわかりませんでした。

●また、悪魔の行動原理がわかり易すぎて、それ故の怖さが失われてしまった気がします。『エクソシスト』の場合、なぜ場所を超えてワシントンに住む少女リーガンに悪魔が取り付いているかの理由が一切わからないため、その意味がわからない部分の怖さがあったのですが、今回は、現地住民から爪弾きにされているピュアな少年に取り付いていることにより、なんとなく手近に取り付きやすそうなところに行っちゃった感があるので、悪魔に人間味を感じてしまいました。

●しかしながら、やっぱりどちらが『エクソシスト』っぽいかというと、抑えたタッチでリアル志向のこちらであり、こちらを手直しして出したほうが予算がかからなかったしひょっとしたら高評価だったかもしれないのになあ、と思いました。いずれにせよ、『エクソシスト』を超えることはないのですから、無駄に一本まるまる作り直した配給会社は、完全に判断ミスですね。


レニー・ハーリン版『エクソシスト ビギニング』について

●で、時系列的に公開が先の方のこの『エクソシスト ビギニング』ですが、こちらは公開当時かなり低評価だったらしいのですが、正直私は嫌いにはなれませんでした。恐らく公開当時の評価の基準はやはり『エクソシスト』のシリーズとしてアリかナシか、であり、そりゃアクション巨匠のレニー・ハーリンが作ってる時点でムリだとは思うんですが、ポール・シュレイダー版をまるまる作り直したというゴタゴタを考えると、レニー・ハーリンは配給会社の意向に答えてしっかりと派手でわかりやすいホラーっぽいホラーを作ったにすぎず、そういう意味では成功していると思いました。

●いい部分を言えば、ポール・シュレイダー版から改変された部分は総じて良かった気がします。悪魔に取り憑かれていたのは少年ではなくヒロインだった!というどんでん返しも良かったですし、墓場の謎を暴くちょっとしたミステリー部分もスパイス的に飽きさせない作りになってました。

●しかしながらまあ、なんとわかりやすいシナリオ!メリン神父の過去の「命の選別」についても中盤の回想で明らかにされ、序盤のたるみを防いでおりますし、メリンが発掘に関わることになった理由や、イギリス軍を呼ぶことになる理由もセリフでしっかりわかりやすく説明されます。このへんは『ドミニオン』ではちょっとわかりにくい台詞回しだったのでちょっと置いてけぼりを食らった人もいるでしょう。まあ、バカでもわかる筋立てが求められたのでしょうね。

●また、『エクソシスト』といえば悪魔が取りつくのは女だろ!というのも『エクソシスト』っぽいといえば『エクソシスト』っぽい。『エクソシスト』のリーガンそのままの造形で出てくるので、そりゃ『エクソシスト』でしょうね。天井からのスパイダーっぽい動きもあります。まあCG丸出しなので強さはオリジナルに及びませんが。

●そしてグロさや血の量についてはこちらのほうが上。そしてヒロインの俳優を変えてのお色気シーンを増々!そしてジャンプスケアも増々!ですがおかげで全く強さのかけらもなくなってしまいました。教会の中の影多めの色使いは好きなんですけどね。キャラクターにカメラが寄りすぎてるし、メリン神父もどっちかと言うと武闘派っぽい面構えで『ドミニオン』と同じキャストとは思えません。そしていちいち超常現象が過ぎる(笑)グランヴィル少佐の自殺シーンなんかは、蝶や鳥の死骸を使ってて、面白かったことは面白かったですがやり過ぎ感もありました。でもまあこれもレニー・ハーリンが配給会社の意向に応えただけなのだと信じたい(笑)

●良かったのは、きっちりと現地住民とイギリス軍の衝突を描いたこと。そして全て全滅にしてしまって救いのないラストにしたことです。ここはポール・シュレイダー版で取り入れてほしかった気もします。なんせ無かったことになってるんでね。
ですがラストカットの合成は許せません。それくらいロケで撮影をしてほしかった…時間がなかったのは分かりますが、映画の魂であるべきラストカットがあれではねえ…メリン神父もすっごい決意のある顔になってるし…なんか違うような…


総括

いずれにせよ、この両作品を比較して見ることができるのは大変おもしろいことだと思います。表裏一体のこの作品を見ることで、いろんな映画界のしがらみというか、ゴタゴタを肌身に感じることができますし、監督によるアプローチの違いでここまで映画が変わるのか!という事もわかって大変興味深い2作品になるので、絶対にセットで観てほしいと思いました!是非是非観てください!
マインド亀

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