えりーぜ

空海 ーKU-KAIー 美しき王妃の謎のえりーぜのレビュー・感想・評価

3.0
原作小説(および夢枕獏先生)のファンで大筋を理解しているので許せる部分と、許せない部分が。酷評されるのも分かる…が、あの大スペクタクル潭の映画化としては、そう外れてもいない。
本作は脚本に夢枕先生関わってないのかな。中国メインで制作されたから中国人監督脚本なんだと思うけど、脚本チェックはしてる感じしたかなー。
とにかく原作を読んでほしい。が、気軽に読める分量と重さではない壮大長編なので、安易に勧められないのがまた…。

染谷将太くんは素晴らしかった。『陰陽師』の野村萬斎さんもそうだけど、原作を読むと、彼を演じるにはこの人をおいて他にないと分かる。従来のイメージ像を外してくるのも夢枕先生のキャラクター造形の特徴。
ただ、空海の天才っぷりはあまり描かれてなかったな。楊貴妃の死のミステリーが物語のメインに据えられてたから、仕方ないけど。

たぶんこの作品の一番の問題は、物語の切り取り方。空海という大天才がニヒルに飄々と歴史の大渦に葬られた闇と社会の隠された憎しみに切り込んでいくのが面白いのに、「楊貴妃の死」というフレーズに引っ張られて、各要素が中途半端になってしまった。それには、そうしないと客を呼べないっていう根本的な問題があるんだろうけど。
豪華絢爛な宴。栄華を極める都には、その分色濃く陰が落ちる。嫉妬や憎しみ、恨みや哀しみが渦巻いて、重たく熟れて腐りかけた果実。そういう闇が、映像美と安っぽい身分の差を超えたロマンスに塗り替えられて、ぼかされている。
そしてあのおぞましいシーンは、美しく粧された映像ではなく文章で読んでこそ鬼気迫る。それはそれは、まさに柔らかく首を絞められるような、そんな恐怖に満ちているのです。
とにかく原作を読んでほしい。是非とも。