よーだ育休中

THE BATMAN-ザ・バットマンーのよーだ育休中のレビュー・感想・評価

4.0
市長選を控えたハロウィンの夜に、現役のゴッサム市長が自宅で何者かに殺害される。現場には《No More LIES》という犯人からメッセージと《To the Batman》と書かれた《なぞなぞ:riddle》が残されていた。街の権力者たちが次々と犠牲になっていく中、ゴッサム・シティに《隠された嘘》の姿が次第に浮き彫りになって行く。


◆Matt Reevesが描く、新生・バットマン

世代的に《バットマン》といえばC.Nolan監督の【ダークナイト・トリロジー】が直球ストライクです。C.Bale演じるバットマンと、H.Zimmerが鳴らす音楽。そしてダークな世界観がとても良かった。T.Burtonが手掛けたM.Keaton版のバットマンも、独特の世界観がコミック原作のシリーズにマッチしていたと思います。金儲けに走って大衆迎合した【Forever】と【Mr.Freeze】については、ここでは割愛させていただきますね。B.Affleck版はスーパーマンのオマケ的な立ち位置なのかなっていう認識なので、やっぱり割愛させていただきます。

原作コミックは未読ですが、映画化作品はそれなりに観ているので、【バットマン】の世界観やキャラクター同士の相関関係について、基本の『き』くらいは頭に入っていると思っています。その上で視聴した今作【ザ・バットマン】。Nolan版のハードルは決して低くはありませんでした。そのハードルを易々と越えてきた感は流石にありませんでしたが、バットマン好きであれば間違いなく楽しめたであろう作品だと思います。従来のコミック出身のスーパーヒーロー映画から脱却し、ダークでリアルな質感の世界を醸造した【ダークナイト】シリーズ。ここに寄せた陰鬱な世界観は非常に良くできていましたし、その中でもキチンと差別化されていたのも良かった。


◆華やかさのない、B.Wayne

今作で主演を務めたのは今勢いのある実力派俳優Robert Pattinson。今までには無い《未熟》で《地に足がついていない》主人公の姿を好演していました。

従来型のバットマンといえば、ゴッサム・シティの資産家であるWayne家の嫡男が、金に物を言わせてハイテク武器やコスチュームを作らせて、改造車両で夜な夜な街へと繰り出し、自警団よろしく悪さをする連中を勝手に締め上げる。そんな基本骨子にスパイスを加えるのが、バットマンの《正体は謎》であるが故に生じるBruceとバットマンとの二重生活から生じる歪み。この葛藤(特にBruceサイド)が物語に起伏を与えるキックになっていることが多かったと思っています。これは【ダークナイト】でも同じでした。対して今作は《ひたすらBruce Wayneという人間を深掘り》して行く内容であったと感じます。タイトルの《THE BATMAN》に相応しい内容でありました。

Bruceがゴッサムで築いている人間関係はほとんど描かれず『Wayne家が過去どのようにゴッサムに関わってきたのか』という謎が若きBruceに突きつけられています。ゴッサムシティが犯罪率の異常に高い街になってしまったのは何故か。其処にWayne家がどのように関わっていたのか。本作のヴィランである《Riddler(Paul Dano)》が暴き出そうとするゴッサムの真実の姿(隠蔽された歴史)と、Wayne家の執事である《Alfred Pennyworth(Andy Serkis)》が語り聞かせる亡き父親の話に挟まれて、自身のルーツに対して葛藤するBruceの姿は新鮮でした。


◆青臭くて、泥臭い。

バットマンとしての顔も表の顔と同じく《未熟》でした。なんでもできるスーパーヒーロー・バットマンの姿はありません。『自分の見張れる範囲は限界がある。だから、闇を味方につける。』という独白から幕を開けた今作。街のチンピラ集団を捩じ伏せるために何度も何度も息を切らしながら繰り返し殴打する姿。ゴッサムの守護神たる暗黒の騎士ではなく、泥臭くて青臭い、若きコウモリの姿が印象的でした。

今作では彼が未熟である事で、アクション作品ではなくサスペンス作品として優れた仕上がりになっていたと思います。知能犯の繰り出すリドル(なぞなぞ)に対して、武力で解決するのではなく頭を使って応戦する。時にミスリードされてしまったり、協力者と歩調が合わなかったり、とんとん拍子に物事が進まず、焦燥感を募らせる姿も見所でした。

そして何より、若きコウモリが《復讐者》から《暗黒の騎士》としての正義に目覚める様子が良かった。劇中で『俺は復讐者だ』と発言していたバットマンが、同じ復讐者であるリドラーと邂逅する事で、自らのアイデンティティを模索し始めます。全編を通じてどんよりと垂れ込めた画面の中、最後にバットマンが掲げた発煙筒のか細い光。一人、また一人とバットマンに続く市民たちの様子を俯瞰で映す演出。《親の罪は子が雪ぐ》というヴィランの発言がありましたが、これもまた一つの解であることは間違いないはずです。


◆豪華キャストと、続編への期待感

☑︎ バットマン:R. Pattinson。
☑︎ メイン・ヴィラン:P.Dano。
未熟なコウモリにぶつけるヴィランにはパワータイプよりも頭脳派。ナイスチョイスだと思います。彼が立ちはだかったことで、サスペンス作品としての香りが高くたちのぼりました。【Forever】ではトゥーフェイスと組ませないとキャラもパワーも弱かったリドラー。今作のように起用すると非常に効果的だというM. Reeves監督のアイデアは素晴らしい。

☑︎ ヒロイン:Zoe Kravitz
過去の映画シリーズを通して、一作目からキャットウーマンがヒロインとして抜擢されるのは珍しい気がします。バットとキャットの組み合わせは安定感があるし、バットマンサイドのキャラクターをヒロインに据える事で、物語の指針(Bruceサイドの人間関係は希薄であること)に一貫性があった様に思います。

☑︎ ヴィラン:Colin Farrell
ゴッサムの権力者や裏社会の人間たちの溜まり場となる〝アイスバーグ・ラウンジ〟を経営するペンギン。演じるC.Farrellの面影が全くなかった!正直今作で一番のサプライズは彼!Danny DeVitoが演じたペンギンのインパクトは越えられませんでしたが、DeVito版とは違ったインテリヤクザ風の雰囲気は良かったです。バットマンと警部に捕まった時、ペンギンみたいなよちよち歩きを見せる演出も遊び心があってナイス。


新たなバットマンはキャラクターのチョイスもキャスティングも豪華で見応えがありました。ゴッサム・シティのマフィアの元締めであるFalcone(彼は彼で〝猛禽=ファルコン〟の様にキャットに跨り首を絞める演出も見所でした)は退場しましたが、まだMaroniがいる事は劇中でも言及されていました。『復讐では過去は変えられない』『希望が必要』として復讐者から暗黒の騎士へと羽化を始めたバットマンですが、希望の胎動と共に、アーカム・アサイラムでは絶望が産声をあげていました。リドラーと笑い合っていたのは、Nolan版の一作目でもラストに含みを持たされていた《あの男》で間違いないですよね?


*雑記*
公開当時劇場鑑賞作品
☑︎ イオンシネマ多摩センター