りゅっくサック

ゲット・アウトのりゅっくサックのレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
4.2
恋人の家族に会いに行く、しかし自分は黒人だから心配。
警官に身分証の提示を執拗に求められ、彼女の実家には黒人の使用人がいる。
ニュースで、授業で聞き及んでいた黒人差別描写の数々に「向こうではこれが当たり前なのか、恐ろしい」と思った。

しかし真の恐ろしさ、いやおぞましさはそこじゃなかった。
深層心理に無自覚に寄生した「黒人=」という考え方そのもの。
そして別の生き物と捉えている常軌を逸した了見。
後半の種明かしではそれをまざまざと突き付けられ動悸がした。

あの変な言葉の意図は?
あれって何を表してたの?
比喩や暗示を思い返し、見識のある方の解説を見たら「なるほど…!!」と脚本の上手さに唸った。
カメラに無駄に映った物は無いんですよ。

「日本人には縁がない差別問題でノレない」と仰る方々が散見されますが、その意識の低さがなぁ…と思ったり。

複雑さもありますがちゃんと日本人役に日本人をキャスティングしています。
その方こそ国際大山空手道連盟の最高師範、大山泰彦さん。
息子さんが脚本家で、監督のジョーダン・ピールと友人だった事からオファーに至ったとか。
大山さんは慣れない撮影現場でクリスと同じ様な居心地の悪さを感じたに違いない。

別エンディングがDVD/Blu-rayに収録されていますが、確かにこちらのほうがよりズーンと重くのしかかっていたと思う。
監督が特典収録させるほど惜しがる別エンドのメッセージ性も捨てがたい。

他の伏線は解説を見てある程度解決したのですが、何で鹿が登場するんだろう?と調べたところ
【“doe”はもともと雌鹿という意味の英単語です。
「男性パートナーのいない女性」や「若い娼婦」を意味するようになりました。】
あー、なるほど。。。

監督はこの映画の立ち位置を
「良いホラー映画には主張がある。
しかし人種差別の心理を描くことは無視されてきた。
その隙間を補うつもりで書いた。」と。
何かを讃えたり貶したりではなく
「俺らから見たらお前らこんなんだわ!」とコメディアンの監督が自分の経験から、皮肉と“話を盛って”ホラーに落とし込んだんではないでしょうか。

「クリスは自分の中の悪魔から解放された」とだから希望があると監督は言ってました。
それでも地獄はここにあります、頭の中に。
目の前の景色は目を閉じればそれだけで消えるけど、地獄からは逃れられない。
だってそれはこの頭の中にあるんですから。

差別はもちろん悪だし、無自覚はグレーでしょう。
しかし何から何まで排斥するのも違うし…。
人の心に当たり前に、簡単に根付いてしまう差別意識、だから難しい。
この映画が生まれ、そして一定の評価を得ているという事自体が証明しているんじゃないでしょうか。

そしてこの作品を「黒人賛美」とひとまとめにする人が恐ろしいと思います。
りゅっくサック

りゅっくサック