EDDIE

光のEDDIEのレビュー・感想・評価

(2017年製作の映画)
4.7
伝えること…それは容易ではない。
独りよがり、押し付けがましい。受け手がどう感じるか。
“光を与える”役目である言葉の持つ力。
五感すべてが満足でなくとも大切なのは相手を理解することなのかもしれない。

河瀬直美監督がパルムドール国際映画祭に日本人で最多の8度目の選出となり、主演の永瀬正敏も日本人俳優で初めて3年連続の出演作出品となったのが本作『光』。

いやはや、とてつもなく素晴らしい映画ですね。
最近観る映画が当たりすぎて、自分の感覚を疑いたくなるレベルですが、これは賛否分かれてるのが不思議なぐらい。

主要キャラの永瀬正敏演じる中森雅哉と水崎綾女演じる尾崎美佐子それぞれがとんでもなくいい演技をします。

撮影はドキュメンタリータッチで、昨年公開の河瀬直美監督作品『朝が来る』でも感じた独特の手法。
だけど、画として全然退屈ではなく、役者それぞれにフォーカスされるたびに見入ってしまいます。
脇役ですが、中立的立場の明俊役の小市慢太郎も良い存在感を放っていました。

やはりですね、私たちのようにレビュー書く人間からすると、自分の想いを形にすることの大切さだけでなく、その難しさを痛感しました。
特に私たちのようなレビュアーは決してお金をもらっているわけではなく、分かり合えなかったり、理解できなかったりすれば、悪い言い方をすれば「あくまで自分の感想だ」と“逃げる”ことができます。

ただし、本作の美佐子のような職業として音声ガイドに務めるプロからすると、逃げるわけにはいかず、向き合わなければなりません。
彼女が向き合うのは弱視の人々。視覚障害者用に映画の音声ガイドを作る職業人で、ただその難しさと厳しい現実をまざまざと見せつけられます。
その中でも仏頂面でズケズケとストレートな物言いをしてくるのが中森です。
彼の感情の読めなさが美佐子のイライラを募らせます。

この2人が理解を深めていく過程を見て、私たちは他者との関わり方を学んでいける、そう思いました。

この映画を面白いとか面白くないとかの感想は人それぞれだと思いますが、本作を観れば作り手側の苦労や工夫を想像せず、簡単に駄作やゴミなどとは言えないでしょう。
まれにそのような感想に出合うことがありますが、その作品が好き嫌いに関わらず残念な気持ちになります。

最近でいえば『100日間生きたワニ』のレビューや予約システム荒らしの件もそうです。
とにかくそこで働く人たちの苦労すら想像せずに、失礼な行動や言動を取ること、これ自体には軽蔑の念すら抱いてしまいます。

人の痛みも喜びも、きちんと話し合わなければわからない部分は多分にあります。
ただ、想像するということは改めて大切だなと再認識させられました。

※2021年自宅鑑賞148本目
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