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散歩する侵略者のonotoramanのネタバレレビュー・内容・結末

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

開始2分から女子高生が家族惨殺してて黒沢監督のサイコパス祭り映画の期待が高まったんだけど、それがいい意味で裏切られる映画だった。

黒沢監督はやっぱり不気味な演出がうまい。画面の緊張感を保つのが本当にうますぎる。
けど、そんなSFホラー見てたつもりがいつの間にか人間の内面に切り込んできてる。この感じなんだろう…って思ってたけど、あれだ。エヴァだ。2002年の舞台が原作だし、主人公「シンジ」だし、たぶん原作は影響受けてる。
CGとか設定が少し甘いと思うとこはあったかな。特に侵略受けてる日本社会にもう少しリアリティ欲しかった。逆に庵野秀明並の緻密さがあればシンゴジラ以上だったかも。

エヴァとかに通じる人間の内面をテーマにした、美しいSF短編小説って感じの映画だった。もっと評価されてほしい。

2024.4.23再視聴
やっぱり面白い。というか好き。「概念を奪う」っていう発想の出発点が好きだし、愛の概念だけが宇宙人すらも想像を超えるものでそれが結果として人類を救うという着地も好き。

概念を奪われるのは恐ろしすぎるけど、所有の概念を奪われることで苦しみから解放される、とかの描写はうまく設定使ってるなーとも感心させられる。
それにしても人から概念を奪うとどうなるんだろうか、っていう想像を見てる間から掻き立てられる時点でやっぱりこの設定はすごい。掻き立てられ過ぎて、そうはならんやろっていうのもあったけど。具体的には、所有の概念奪われたらそもそも所有に対してNOと言うこともできなくなるんじゃないか、とか。

概念が喪失したら人はどうなるのか。自分なりにも考えてみたら「プログラミングで特定の単語が使えない状態」が近いのではと思った。だから概念を奪われるとエラーが発生して身体機能に異常が発生してしまう。「自分」と「他人」が奪われた状態では、プログラミング上で動作目標の指定が正しくできないみたいなの?をイメージした。
宇宙人は地球人とは違うプログラミング言語を使ってて「ふむふむ、C言語ではこう書くのね」「あ、この言語ってこういうこともできるんだ」ってしてるのが概念集めなのかなと思う。で、愛の概念は宇宙人の言語にはなかったパラダイムシフト的発想の転換、みたいな?

この作品の中で一番よくわからなかったのが、もう1人の主人公サクライ(記者)の最後の行動。自分はずっと、彼は宇宙人を倒す隙を窺ってるのかと思ってたんだけど、どうして最後宇宙人が人類を滅ぼす肩入れをしたんだろう?
彼は人類なんてやっぱり滅ぶべきっていう思考になっていったんだろうか?そうだとしたら、そういう描写が欲しいとは思う。
まあでも、「人間は人類以外の存在と出会うと予想もしないことをしてしまう」ってことならそうかもしれない。サクライ側のパートでは他の人間は暴力的で彼をつけ回す奴らばっかりだし、彼の唯一の理解者は実はあの宇宙人だったのかもしれない。まあ無理がある解釈な気もするが笑
でもそう考えると、最後のサクライが宇宙人に乗り移られたのか、彼自身なのかわからない描写はいいなーと思えてくる。

あと思ってしまうのが、SFなら細部の作り込みもう少し頑張ってよ、ってとこ。
概念が奪われた人間の行動に説得力を感じないものがある、精神異常者が急増してたとしても武装した自衛隊は出てこんやろ、公安っぽい人の武装の選択肢としてマシンガンは安易すぎる、サクライに爆撃する必要性、宇宙人の火の玉攻撃、etc..

「概念を奪う」って言うフィクションに対してノンフィクション部分がガバガバなので説得力がなー・・・。シンゴジラなんかその点完璧すぎて、ゴジラっていうフィクション以外の周りのノンフィクションの固め方しっかりしてるから、全部は到底理解できなくても圧倒的説得力を感じてしまう(前のレビュー見返したら同じこと言ってた笑)。原作の演劇では想像に委ねる部分であったであろうところを素直に映像化してしまったための破綻も多そう。
病院で概念失ったらしい人たちが大量にいたのも「なんで?」って思ったけど、それくらいは作品内で説明しない奥行きとしてはアリだと思う(ただやはり映画としては不親切)

粗いとこ多くて改めて見ると余計気になったけど、やっぱりこの設定と着地が好きで楽しめてしまったなあ。原作の演劇も見てみたい。
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