レク

散歩する侵略者のレクのネタバレレビュー・内容・結末

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

侵略者である宇宙人たちは会話をした相手からその『概念』を奪っていく。
そして奪われた人からは、その『概念』が永遠に失われてしまう。
では何故、宇宙人は『概念』を集めるのか?

地球侵略、と言っても目的は人類の絶滅。
人類と戦うためには人間という生き物を理解しなければならない。

その為に送り込まれたのが真治、天野、立花の3人です。
それぞれが得た『概念』を持ち寄り、人間という生き物を理解した上で侵略を始める。
実に手の込んだ侵略です。

恐らくその真意は、人類は地球にとって滅ぼすべき生き物なのか?を知りたかったのだと思います。



ところで皆さん、『概念』って何だと思われますか?

物事の抽象的な一般的考え。
一般的な包括的表現。
恐らくこれが一般的な答えだと思います。
これが概念の『概念』。

よく、「固定概念にとらわれるな」なんて言ったりもしますよね。
我々人類は『概念』によって思考や行動の幅が狭められたり、制限されたりしているのではないか?


「家族」という『概念』を奪われた鳴海の妹は親からの期待に縛られることなく自由になった。

「自分」と「他人」の『概念』を奪われた学歴コンプレックスだった刑事は自分と他人を比較することを止めた。

「所有」という『概念』を奪われた丸尾は引きこもりから一転、開放的になった。

「仕事」という『概念』を奪われた鳴海の職場の社長は仕事に追われることなく遊びだした。

今まで縛られていた『概念』が無くなることで、どこか清々しくもあり幸せになったようにも見えてしまう皮肉さ。

しかし、愛や憎しみと言った感情の『概念』というのはひとりひとり違うものだと思いませんか?
それを『概念』と呼ぶこと自体が間違っているのかもしれない。
でもそれ自体が概念の『概念』なわけで、人によって愛のカタチは違うと思うんです。




真治は鳴海の妹から「家族」の『概念』を奪い、鳴海の職場の社長から「仕事」の『概念』を奪い、夫婦生活を知る。
鳴海はそんな真治の姿に、鳴海の中で徐々に愛が大きくなっていく。

この夫婦の"愛の再構築"と"愛の逃避行"が堪らなく好き。


人間の、鳴海の愛に触れ、そして愛を奪うことなく与えられて初めて人間とは何か?を知り、人間らしさを得た。

結果的に真治は鳴海から「愛」の『概念』を奪ったが、これを"奪った"と言いたくない(笑)
鳴海自らが差し出したもので、真治を愛していたからこそそこにあったものだから。

語ることは出来ても言葉では言い表せない"愛"という『概念』を理解することが一番難しく、それを得ることが出来たのは唯一の夫婦関係である真治に乗り移った宇宙人であり、また一から自分を見つめ直した姿に少しずつ芽生えた愛情を受け取れたものまた彼である。


鳴海の愛の『概念』を得た真治はその後、笑顔を見せるようになったのにお気づきになられましたか?
それまでは無表情だった真治に少し笑顔が見れるんですよ。
ここに最も人間らしさを感じました。

経緯はわかりませんが、他の2人の宇宙人は結果、若い子供に乗り移ったが、最後の1人が妻を持つ真治に乗り移ったことが良かったということか。

「愛」を知った真治は感情の欠落した鳴海を一生見守っていくことだろう。
それが、真治の鳴海に対する掛け替えのない愛の『概念』なんだと思います。




小説ではラストは異なった終わり方になっているそうで、小説は未読故に読んでみようと思います。
今回は映画のラストについての個人的な解釈をさせていただきます。

あの隕石シーンから2ヶ月後、宇宙人は地球侵略をやめた?

ということは人類は絶滅する必要が無いと宇宙人が理解したのか?

これは人間の「愛」という『概念』がそうさせたのかもしれない。という想像ができますね。


しかし、どうやってその「愛」という『概念』が宇宙人たちに伝わったのか?
真治が仲間に伝えることは出来ないはず。
仮に通信が可能だったとしても、真治は鳴海のことしか考えていなかったからわざわざ侵略者に『概念』を伝えるのかも疑問だ。

そう考えると、侵略者たちは真治らと同じように人間を乗っ取り、その中でそれぞれ愛の概念を知り、真治と同じように人間として生きているんじゃないか?

つまり侵略をやめたのではなく、人間と共存するカタチを選んだ。
と考えられないだろうか。


とまあ小難しい『概念』やSFらしい宇宙人の侵略などが全面に出てしまいましたが、人間の姿をして非人間的な行動をするちょっとクスッと笑える演出もあったり、鳴海と真治のラブストーリーも魅力的で、シリアスだけに留まらないところがいいですね。

宇宙人が地球侵略の為に集めた様々な『概念』。
これこそまさに我々人間が見つめ直すべき、大切にすべきものなのではないでしょうか。
レク

レク