tristana

真白き富士の嶺のtristanaのレビュー・感想・評価

真白き富士の嶺(1963年製作の映画)
5.0
庭の木陰にひっそり置かれた籐椅子。無人の椅子に語りかける芦川いづみの周りが薄暗くなって過去へ遡るオープニングからただならない空気。死の影を背負うと同時に気付いていないフリをする小百合の過剰な演技(の演技)に早くもいたたまれなくなって臨海学校指導の宮口精二の胸板薄さまで心配になる。イニシャルに取り憑かれたいづみとデザイナー小高の偽手紙、誰もが自分なりの善意で行動しているのに少しずつズレていて、いっそうこじれていく関係。死期を悟った人間が見せるシニカルな態度から徐々に純粋な恐怖へとシフトしていく気迫、病の床で転覆するヨットには光夫がいてその三日後、誘い出されるように嵐の海へ。よかれと思って捏造した幽霊が口笛を吹いて迎えに来る。手紙を読みあげるところからの暗さに滔々と口から流れ出る悲しみ。どこからともなく聴こえてくる真白き富士の嶺のメロディ。
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