櫻イミト

Mの櫻イミトのレビュー・感想・評価

M(1951年製作の映画)
3.5
ラング監督の名作「M」(1931)のプロデューサーが20年を経て企画したリメイク。舞台はベルリンからロサンゼルスに変更している。監督は「召使」(1963)「恋」(1971)のジョセフ・ロージー。撮影は「キッスで殺せ」(1955)のアーネスト・ラズロ。助監督にロバート・アルドリッチ。

ロサンゼルス。幼児連続殺人事件が発生し、警察と暗黒街の犯罪者たちがそれぞれ謎の殺人鬼を追い詰めていく。。。

1931版「M」はラング監督にとって初のトーキー作品で、映画史上の衝撃作だった反面、劇伴の無い寂しさ(そのため口笛が目立ったのだが)と少々の解りにくさがあったと思う。本作はラング版を忠実になぞりながらストーリーが解りやすいようにきめ細かい演出を加えている。映像的にも不気味な粘土人形やマネキンの部屋などドイツ表現主義へのオマージュが感じられた。

大きく違っているのが犯人像と最終パートのプロット。ラング版のアイコンと言える犯人役ピーター・ローレの不在を、正反対のイメージの犯人像と弁護士の役回りの変更で対応している。これによって映画全体のテーマも変化している。一言で述べれば本作は基本的に理性的であり、振り返ればそれがロージー監督の個性とも言える。犯人の言い分は社会批判的な理屈を備えていて心身喪失はしていない。ドイツ時代のラング監督は大衆に潜む見えざる狂気をテーマとし「M」もその線上の作品だったが、本作では個々人の理性の狂いを描いているように思えた。同様のプロットを用いながら、テーマを時代に合わせてアップ・デートしているのだ。

両作それぞれに優れている点がある。ただし、ラング版のピーター・ローレの存在感と地下の暗闇に現れる大衆の姿は傑出していて、いかに凄い作品だったかを再認識した次第。

※「ブレードランナー」(1982)でも使用されたLAのブラッドベリービル地下室でロケ
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