とらキチ

熱いトタン屋根の猫のとらキチのレビュー・感想・評価

熱いトタン屋根の猫(1958年製作の映画)
4.8
テアトル・クラシックス ACT.2 ①
南部の大農場を一代で築き上げた”ビッグ・ダディ”の退院祝い兼誕生パーティーに集まった家族が繰り広げる愛憎劇が描かれていく。
一見どこにでもあるような、日本人の大好きな財産目当ての家族の内輪もめの話しのように見えるが、原作者であるテネシー・ウィリアムズ自身がそうであったように、ポール・ニューマン演じるブリックは実は同性愛者だった、という設定があり、それを念頭に入れて鑑賞すると、見方が全然変わってくる。ブリックが酒浸りになってしまったのは“親友”であるスキッパーが自ら命を絶ってしまったからなのだが、つまりはその“親友”関係とは“そうゆう事”だった、ということである。更にはエリザベス・テイラー演じるマギーが何故“熱いトタン屋根の猫”なのかも、“そうゆう事”でもあるし、なんならスキッパーの自殺の一因にもなってしまっている。1950年代のハリウッド映画作品という事で、原作戯曲で描かれていたブリック達2人の関係は匂わす程度で留まってしまっており、はっきり言って「言われなければわからない」レベル。でもポール・ニューマンは、当然その事を知って演じているはずなので、それを念頭にしてお芝居を観ていると、とても深い。冒頭、ブリックが酔って跳ぼうとして躓き、骨折までしてしまった“ハードル”とは、まさに当時の同性愛者に対する世間の風潮そのものだったと言える。
初めはその名の通り、成功者としてとても尊大だった”ビッグ・ダディ”が自らの余命を知り、家族達との感情のぶつけ合いによって、最終的には憑き物が取れたかのように晴れやかな姿へと変化していくお芝居が素晴らしい。また、兄嫁の顔つき風貌から言動まで「これでもか!」と言わんばかりの徹底したヒールっぷりと、それに付随したクソガキ供のウザさも、かなりイライラさせられて良かった。
ただ、当時の女性観を反映したかのような“ビッグ・ママ”の終盤までの描き方や、男性目線に媚びたようなショットを多く撮られてしまっていたエリザベス・テイラーには、いくら時代とはいえ、ちょっとお気の毒な気分になってしまった。そしてあのエンディングも、アレが時代の限界だったのだろう。
とらキチ

とらキチ