海老

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルの海老のレビュー・感想・評価

4.0
出鱈目な構成。
出鱈目な人々。
出鱈目かもしれない告白。
そして何より出鱈目に面白い。

こんなにも面白く魅せる作品とは知らず、油断していました。

ドキュメンタリーの番組のように、インタビューに応じる構図でカットインしてくる出演者たち。それぞれの勝手な言い分と、トーニャの半生のドラマが並行して進む。シーン切り替えが絶妙で、事件以外もスキャンダラスな生き様が、軽妙でリズミカルに伝わってきます。ドラマパートでもメタ発言かのようにカメラ目線で「…なんてことがあったのよ」と観客に語りかけるのもしばしば。この演出がカットの区切りを心地よいアクセントにしてくれていましたね。

冷静に考えて主要な出演者の多くがどうしようもなくロクデナシ。…な見せ方に意図的にされています。
トーニャも「私は悪くないわよ」ばっかりだし、ママなんて「フ●ッキン以外の形容詞知らんのか」と言いたくなるほど口が悪い。ジェフとシェーンに至っては度し難いド屑。
なのに嫌気がさすどころか、何だかトーニャが愛らしく見えてくるし、ママとのやり取りも滑稽に感じたりする。
ジェフのDV表現は容赦がないので、苦手な方はそこだけ注意点でしょうか。

事実は小説より奇なりとはよく言ったものですが、壮絶な人生を壮絶に生きているからこそ、エンターテイメントとして成り立つし、娯楽に昇華されています。「他人の不幸は蜜の味」なんて範疇で描いていたら、こんなに惹きつけて楽しめる作品にはならなかったでしょう。

大勢の人に愛され、同時に憎まれたトーニャの言葉には重さがあります。

「私は再び虐げられた。今度は世間に。アンタたちに。これを観てるアンタのことよ。」と真っ直ぐに睨みつけられるのは、スクリーン越しに胸ぐらを掴まれる心地でした。
実際、メディアを通じてトーニャをこき下ろし下卑た爆笑を響かせているのは酷く醜い。自業自得であるかどうかはこの際置いといて、僕自身、「アンタたち」の一人であることは誤魔化してはいけないなと思う。
「私は悪くない」なんて言わずに。
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