黒田隆憲

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルの黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

人生を変えるために必要な行動は、「習慣」「環境」そして「人間関係」を変えることだとはよく言われるが、もしトーニャ・ハーディングがタバコや酒を絶って自堕落な生活を改め、暴力的な母親ラヴォナや夫のジェフ、そしてその友人たちと早めに手を切っていたなら、彼女が犯罪者になることはなかったかも知れない。が、あの鬼のような母親の熱烈な指導がなければ、「全米初のトリプルアクセル達成」という偉業を彼女が達成することも、またなかったのだろう。妄想癖のある、実家暮らしのニートで童貞のどうしようもない肥満男(トーニャの夫の友人)に人生をメチャメチャにされたトーニャがあまりにも不憫。本編最後のセリフ、「みんなに各々の真実があって運命には抗えない」というトーニャのセリフが重くのしかかってくる。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のナオミ役や、『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クイン役で大きな注目を集めてきたマーゴット・ロビーと、『アメリカン・ビューティ』や『タルーラ』などで強烈な印象を残してきたアリソン・ジャネイがとにかく素晴らしい。4ヶ月特訓を摘んだというスケートも圧巻だったし、かの有名な「靴紐事件」の直前、控室の鏡の前で笑顔を作るマーゴットの演技には鳥肌が立った。ちょっとイモっぽい髪型やメイク、ファッションなどで、トーニャの垢抜けなさも見事に再現。方やアリソン・ジャネイのずっと変わらない髪型やメガネ、ファッションのハマリ具合ときたら。無表情で突然殴りかかってくるのも恐ろしかった。

そもそもトーニャとナンシー・ケリガンは、プライベートでは親しかったそう。それをマスコミが煽って「トーニャVSナンシー」の構図を作り出したらしいのだけど、それって「浅田真央VSキムヨナ」の対立を煽ったのと同じじゃん、何も進歩してないんだな、とも思った。

描き方によっては幾らでも陰鬱な作品に出来ると思うのだが、インタビューによる証言(もちろん役者が演じたもの)を交えながら時系列で話を進めていくドキュメンタリー方式にしたり、登場人物たちが突然こちらに話しかけてくる「第四の壁の破壊」と呼ばれる手法を取り入れたり、全体的にポップな仕上がりにしている。インタビューシーンでは画面を分割し、トーニャとジェフがそれぞれの言い分を(観客に向けて)語りかけてくるところとか『アニー・ホール』を思い出した。

スーパートランプ、ローラ・ブラニガン、スージー・アンド・ザ・バンシーズ、バッド・カンパニー、フリートウッド・マック、ダイアー・ストレイツなどの名曲が、全編にわたってガンガンかかりまくるのも最高でしたな。
黒田隆憲

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