※嘔吐と自傷の表現あり
『満月、世界』の塚田万理奈監督。やはり凄かった。摂食障害への向き合い方・描き方が非常に真摯。監督の経験が基になっているとはいえ、それを真摯に描けるかは経験の有無には関係ないので、やはり映画に対する姿勢の違いだろう。体型管理への強迫観念や周囲との比較、家族との些細な軋轢から、思ったように食事を摂れなくなる聡子。会話に用いられるたった一つの単語から生まれる違和を見逃さない、それゆえに違和から逃れられない。そういう苦しみに溢れていた。帰ってきたらすぐ一旦寝る父親とか、口をあんぐりあけて寝ている母親とか、学生どうしあるいは親子どうしのちょっとどうかと思うくらい粗暴なやり取りとか、細部に真実味が宿る。でもリアルさを質の担保にしているわけではなく、かといって虚飾塗れで劇的にするわけでもない。丁度よいバランスのところを取れるのが塚田監督。
後半からキーマンとなってくるマキの描き方も、もう一人の主人公と言えるレベルだった。「精神とかではない」と言いつつ、ある種の危うさも持っているマキ。観客から聡子への眼差しが、聡子からマキへの眼差しへとスライドしていく。自分だけ「大丈夫」になってしまっていいのかという疑問。「普通」とは?「頑張る」とは?自問自答の果てに答えはない。でも答えが無いことに、開き直っていいわけではない。マンホールと海。