MasaichiYaguchi

結婚のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

結婚(2017年製作の映画)
3.4
「恋愛と結婚は別」とか、「結婚は人生の墓場」とか言われたりするが、井上荒野さんの同名長編小説をディーン・フジオカさん主演で映画化した本作を観ていると、結婚生活が長い私でも改めて考えてみたくなる。
ディーン・フジオカさん演じる結婚詐欺師の古海健児は、ある時は小説家、またある時は空間コーディネーターと、プロフィールを変えてターゲットの女性に接近し、手練手管で籠絡していく。
彼のターゲットになる女性たちは、公務員や販売員、キャリアウーマンと様々だが、一様に孤独で、強がっていても、心の何処かに「結婚」という一つの安定や安心を求めている。
そんな彼女らの心の隙間に古海は巧みに入り込んでいく。
ネズミ講や投資詐欺に比べ、古海がしている結婚詐欺は個人としては大金だが、身包みを剥ぐような額ではなく、手間や労力、足が付くリスクを考えると割に合わない。
何故このような割の合わない詐欺を古海は繰り返すのか?
その動機とも言える背景や彼の素性、そして彼がトラウマになっている子供時代の出来事が終盤の方で解き明かされる。
この作品は古海の“トラウマ物語”を描いたものだと思うが、その物語を通して結婚の“虚と実”が浮き彫りにされている。
結婚に対して抱く理想と現実、そして虚実が古海の中で綯い交ぜになっている。
街中や電車の中で仲の良い老夫婦を時々見掛けるが、この「おしどり夫婦」と呼ばれるカップルの中にも、どちらかが譲歩や我慢していたり、場合によっては双方共の忍耐によって、その仲の良さが保たれているような気がする。
欧米では古くから6月に結婚すると生涯幸せな結婚生活ができるという言い伝えがあって、ジューンブライド(june bride)に憧れる女性も多いと思う。
本作は結婚とは、それも幸せな結婚とは何かということを古海の詐欺を通して投げ掛けている。