こみい

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのこみいのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

-手紙を読む前にドアが開いた理由-

ゴーストが手紙を読んで成仏するところでこの映画は終わるが、手紙を取り出す→家のドアが開き、ドアの方をチラ見する→ドアに背を向け手紙を読む→成仏するという流れになっている。
このタイミングでドアが開いた理由が初めは分からなかったが、おそらく誰かが来た、もしくは帰ってきたということよりもゴーストが気にしたのは手紙の方だったということを表しているのだろう。つまり、彼の成仏ポイントは現在の妻との再会ではなく、過去の妻が書いた手紙を読むことだったということだ。
隣人のゴーストは、家が取り壊された時、「もう帰ってこないみたい」と呟き消えていった。英語ではI don’t think THEY(複数形) are coming. となっており、隣人ゴーストの成仏ポイントは、我が家での家族との再会であったと窺える(結局は叶わなかったが)。
2人のゴーストは似ているようで、現世に残っている理由は少し違う。隣人ゴーストは誰かと再会すること、主人公ゴーストは手紙を読むことをそれぞれの成仏ポイントとしているからだ。
では、なぜ主人公ゴーストは手紙を読むことに執着し、それが叶わない間は成仏できなかったのだろうか。これは手紙を読むという行為が妻との対話を表しており、その対話が不十分な状態でこの世を去ってしまい、そのことが未練として残ってしまったからではないだろうか。引越しの話や音楽の話を中心に、対話が不十分な描写はいくつかあるが、一番象徴的なのは旦那が妻に自分の音楽を聴かせたシーンだと思う。他人の作ったものを本人の目の前で味わされるという、感想を言わざるを得ない状況で妻は何も答えない。ただ、音楽を聴かせる前に旦那は妻からの話し合いの申し出に対し、「明日なら話すかも?」といった返答ではぐらかしており、妻から音楽の感想が出てこないのも仕方がない。そもそも互いに対話ができていない関係だからだ。
このような関係の中、事故死による別れが訪れ、「もっと話せばよかった」、「自作音楽の感想が聞きたかった」という思いから成仏できず、手紙を読むことが彼にとっての成仏のタイミングとなったのだろう。隣人ゴーストが誰を待っていたか忘れたように、待っていた手紙の内容はゴーストも忘れてしまったのではないだろうか。だから手紙の中身は重要ではなく、観客には明かされずゴーストも手紙を読んだ余韻に浸ることなく消失する。
隣人ゴーストは再会を諦めて成仏していったが、主人公ゴーストは願いが成就して成仏できたという見方もできる。ただ、作中のずっと壁を掻き続けているシーンは物悲しく、簡単にハッピーエンドとは言えない。ゴーストが壁を掻き続けるシーンは失ったものに執着してしまった経験のある人は、痛々しくて見ていられなかったのではないだろうか。それでも成仏までの一連のシーンは、曲も相まって美しく何度も見てしまった。
こみい

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