Ryu

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのRyuのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

これをハッピーエンドとして取るか、バッドエンドとして取るかは、切り取り方で別れる気がする。

描写や間、映像美は素晴らしかった。
最初、夫が死ぬまでの長回しのおかげで、幽霊として起き上がるシーンには驚かされた。
微妙に、妻がはけたあとに妻の物音を入れておくからこそ、そっちに集中していたからという理由もあるだろう。

1番の長回しである、知人が持ってきた食事を妻が食べるシーン、確かにクスッとしてしまうほど長い。
けれどこの作品の真骨頂はそこにあると思う。
間伸びの崩壊とでも言えば良いのか、リアルすぎる尺が、逆に鑑賞者にリアル感をなくさせている。
なんにせよルーニーマーラの演技力と幽霊の残し方など、技術面もあったが故のシーンだった。

引っ越しで妻が、壁に手紙を入れる。
その上から塗っていた白いペンキが、まるで幽霊の涙の様に垂れていると感じたのは考えすぎだろうか。
妻との別れと最後の綱。コミカルに言うと、それ見ないとあの世にいけないじゃんと言う嘆きとも言える。

そして、手紙を取ろうとペンキを剥がして手紙を取り出そうとするが、エンディングの伏線に繋がるスペイン家族?の引っ越しによって、阻まれてしまう。
子供が幽霊を銃で撃つ描写は、もう一度この世に踏み込んでしまった事に対しての禁忌を意味する気もする。子供とシングルマザーと言う組み合わせが、夫に取っては、妻との生活を想像させたが故のポルターガイスト現象だろう。

その後、海外らしいパーティーのシーンでは、禿げた男が曲や創造に対して語る。結局は全てが無意味。これが、この映画をバッドエンドにし得る要因だと感じた。夫は、描写の中で自分勝手な描写がところどころにあるので、自分の誇りとしての音楽を馬鹿にされた事に対しての凄まじいポルターガイスト現象は、その家を廃墟と化してしまった。ピアノが崩壊していた辺り、相当な暴れようだったんだろう。

そして、すべての住人を追い出し、廃墟に変えさせた今、今度こそ手紙を読めると思ったが、その瞬間にブルドーザーが家を壊す。この映画では何箇所かホラーではない心臓に悪いシーンがある。

そこから、未来都市へと時は進み、夫は手紙を読むことを諦めビルから飛び降りたが、まさかの大昔にタイムスリップ。
おそらく、幽霊は既に死んでいるため、もう一度死ぬ事は出来なかったのだろう。
先住民族の娘が主人公の妻と同じく手紙を石の下に入れていた。もしかするとそれを同じ場所で死んでいた父が読むため、この世に留まり、現代のシーンの向かいの家の幽霊へと繋がっているのかも知れない。

そして最後、タイムスリップ物では禁忌であるはずの自分が2人いる状態になっても尚、手紙を見なければ終われないので、本来ペンキが塗られているはずの壁はまだ塗られておらず、手紙を取り出す事が出来た。その時に何故か扉が開く。
このシーンはある意味では、ハッピーエンドにも捉えられる。
そして、夫は念願の手紙を読み、お役御免と言わんばかりにあの世に逝ったのだった。

バッドエンドとしての捉え方は、禿げた男が言っていたすべては無意味。
だから、わざわざ妻の残した手紙のためにこの世に残り、読もうとし続けることなんて、結局は何の意味もなかったんだと想い、空虚を想い消えて逝った。

ハッピーエンドとしては、手紙を入れた壁の辺りによく光が入っていた。
それを象徴的に使い、妻は夫が死んでからも、夫が家に居座っている事を知っていた。
だから、手紙を残して読んでくれる様に自分自身で光を照らし、生きている自分にその壁の中に手紙を残させた。(その光は夫自身も妻のために照らしていたと考えるべきだろう。)
そして、妻が夫の手紙を読む瞬間を見届ける事で、お互いにあの世に行けたのではと考えると、綺麗で神秘的な終わり方かなと。扉が開いたのはそのせい。

とまあ、つらつらと書けるくらい個人的には好きな映画ではあったが、最後に何点か作品としての崩壊部分を愚痴り終わりたい。
だが、映画とは揚げ足を取る物ではなく、あくまでその監督が考えたこの世に訴えているメッセージを掴む事が最も映画を観る上で、大切なのだと自覚はしている。
がやはり気にはなってしまうのが人間の性とでも言えるのだろうか。

未来都市のシーンで、ガラスに夫が写っていたが、あれを映してしまうと、確実に妻は一度どころか何度も布を被った夫を発見していたことになってしまう。なんとしても、あそこは消して欲しかった。

タイムスリップして先住民族なる人達が死ぬが、父親は向かいの幽霊という事で辻褄は合うが、娘も一度は布を被って登場させないと夫が幽霊になった整合性が取れない。いわいる主人公補正になってしまう。
それとも、娘にはこの世に後悔なんてなかったのか?

幽霊同士で会話をしているシーン。
日本語字幕だけなのかもしれないが、字幕で会話をしている。あれはカメラマンや役者の仕事を無意味にしてしまっている。字幕セリフがなくても、撮り方や役者のマイムなどで十分伝わってきたが故に残念だった。

妻があそこまで夫に惚れている理由があまり分からなかった。
曲の歌詞には
髪は普通で、皺だらけ。
子供はいない、空虚。
の様な妻に対し結構酷い事を言っていたし、ポルターガイストが起こる家を頑なに引っ越さないしで、描写の限りでは夫に惹かれる部分が無かった。
夫が死体を見るシーンで一度も涙を流さなかったのはそのせいか。
だが、そうなるとご飯を吐くまでの落ち込みに矛盾を感じる。
他の描写を見ても、やはり妻は夫の死を悔やんでいるように思えた。

最後に、最も元も子もないが、タイムスリップして、自分が越して来たところまで戻れたんなら、家の前で起きた自分の事故を免れる事も出来たんじゃないかなと思わざるを得ない。
あんなにポルターガイストを起こして人を追い出せるくらいの力があるなら、事故らない様にする事くらい簡単だったはず。

結局のところ、ハッピーエンド、バッドエンドどちらでも成り立ちはする。
そして、この世は生きている人達の物であって、死人に口なし。
だから、最初の病院で開かれたあの世に行く事が夫にとっての最良の選択だったと言えるんじゃないだろうか。

物凄く簡単に言うと、パターソンとperfect daysと全然怖くないホラーを足して、3で割ったかの様な作品だった。
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