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夜明け告げるルーのうたのレクのネタバレレビュー・内容・結末

夜明け告げるルーのうた(2017年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

町を日の光から遠ざける大きな壁を隔てて田舎町に住む人々と隠れ住む人魚の共存。
人魚の伝説や噂話、体験談などからどこか排外的で人魚に恐怖心を持つ大人たちは、自分にない物を求め恐れる人間という生き物そのものを表している。
その大きな壁を取っ払い、町そのものに、そこに住む人々に日の光を当て、夜明けを齎した歌には目頭が熱くなった。

まず、このキャッチコピーが素晴らしいんですよ。
『君の"好き"は僕を変える』
好きなものを肯定できることってとても大切なんです。
好きなことを好きだと語れる喜びは何ものにも代え難い。

初めは物珍しい異質な存在への興味と目新しさで利用し人気者になるも、その危険性が見つかると人は不要な存在だと捲し立てて追い込む。
人間とはなんて身勝手ないきものなんだろう。
そして、その不安が伝染し、次第に大きくなる恐ろしさ。
排外的思想や集団行動の怖さはそこにある。
そんな異質な存在であるルーも自分を信じて受け入れてくれたのは好きな人だった。
姿は見えなくなっても遠くからきっとその好きな人を見守っている。
人と人でない者の恋というのは儚くも美しく神秘的なもの。
非現実的であるからこそ、エモーショナルに浸れるものだと思う。
そういった意味でも、この作品は感情的に観てもらいたい作品。

まだ見ぬ未知の世界というものは少なからず不安や恐怖を覚えるもの。
しかし、何かをきっかけにその見え方は180度変わるかもしれない。
相手の好きなものは自分の視野を広げてくれるかもしれない。
自分の好きなものを肯定することで見えてくる景色もある。
そんな人生における見落としがちな大切な何かを一つの大きな壁と人魚と音楽を通して教えてくれた。
人魚に対する価値観、音楽に対する価値観、田舎町に対する価値観、そんなものは人それぞれだが、その好き嫌いを上手く表現しつつ纏めあげられている。

アニメーションで言うなら粗い部分もあるが、フラッシュバックを巧みに演出した現実と過去で描き分ける作風の違いと神秘的且つ親しみやすい映像はどこか懐かしさすら感じる。
きっとそれは都会から離れた田舎町と都会から来た主人公、都会を目指す人たち、故郷を好み帰郷した大人たちが暮らす町だからだろう。

同時に子供たちの成長譚でもあり、そういった点でも人間味の溢れる作品で、人魚というファンタジックな要素を取り入れて、歌という心に響く音楽を媒体に鑑賞者側の心へ響かせる。
これは傑作としか言えない。
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