尿道流れ者

羅生門の尿道流れ者のレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
4.9
篠突く雨のなか語られた一つの事件は不思議なものだった。男が一人殺された単純な事件のはずだったが、盗賊・犠牲者の妻・イタコに呼び出された犠牲者の当事者3人は全くバラバラの証言をしていた。しかし、その事件を見ていた4人目の男がいた。芥川龍之介の作品をベースにした、見応えあるしっかりとした作品。この題材でただのサスペンスとせず、ヒューマンドラマになっているのが面白い。

3人の証言は嘘に塗り固められたもので、その嘘は自分の尊厳や理想の姿を守るためのもので実際の姿はあまりにも無残で矮小なものだった。そうした、エゴイズムの塊である嘘を目の当たりとした語り手の一人である坊主は信じる者のいないこの世は地獄だと嘆く。しかし、そこでもう一人の語り手の見せる小さな小さな希望や優しさにより救われた坊主の姿!小さな希望を見せたもう一人の語り手の誇らしい姿!こんな小さな希望も人間が生きる理由には十分ではあるし。少しの誇らしさだけでも人間はこんなにもしっかりと歩けるんだという人間という生き物の厚顔無恥な生命力がとてもあらわれている。サスペンスとして終わるのではなく、れっきとした人間賛歌として素晴らしい映画。

表面的にもこの映画は素晴らしく、藪の中に入っていくスリルや殺陣の危なかっしさはとても緊張感があって最高のシーン。三船敏郎だからできる、コミカルで奇抜な殺陣まわりもとても良く、無声映画のなごりがあるようなシチュエーションに合わせたBGWも最高に決まっていた。さすが名匠の名作だと実感できる一品。