しゅんまつもと

サスペリアのしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

サスペリア(2018年製作の映画)
4.8
時に人は自分の理解が及ばないことを「恐怖」と名付けたり、排除したりする。でも、もしかしたら、その対象を「美しい」と感じることも、あるのかもしれない。

ルカ・グァダニーノの映画とはいえまさか「サスペリア」が自分の生涯で忘れられない一本になるとは思わなかった。
序盤のダンスとアレの二重奏からちょっと只事じゃない感で溢れる。大筋ではこういう話なんだろう、という自分の想定があるポイントからぐにゃりと歪んでいく。
盗む/盗み見るという行為が映画全体を貫き動かしていく。
Thom YorkのUnmade(Thom Yorkのキャリアでも指折りの名曲だと思う)にのせて起こるあるシーンは、もはやなにを見させられているかわからないのになぜか胸を打たれてしまう。

普通の映画であればそこがピークでもいいはずなのに、この映画の核はその後にやってくる。(後から考えてみると全体を通底していた)
誰が誰に赦しを与えるのか、その人にとって何が赦しとなるのか、果たしてそれは赦しなのか。そんなことをずっと考えてしまう。(ひとりで見ないでくださいってそういうことか!)

最初に書いた、理解できない対象を恐怖や美と呼ぶように、「誰かを救えなかったこと」が「誰かを救うこと」の理由になったり、もっと言えば「誰かへの想い」が「別の誰かへの想い」になり得る。この映画においては、そういう転移がしばしば起こる。(冒頭の診察室のシーンでユングの転移の心理学が示される)

転移ってのは味気ない言い方だね。だから自分はそれを「感情のバトン」のようなものだと捉えたい。
「君の名前で僕を呼んで」がそうだったように、いつか殺した想いがずっと先、思いもかけないところに繋がったりすると思いたい。あの壁に残る痕跡のように。確かにここに在ったと。