のちゅー

彼女がその名を知らない鳥たちののちゅーのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

白石和彌監督がラブストーリーを撮るとこうなるのか。
仕事も家事もせず汚い部屋でクレームの電話を入れて一日を過ごすこの物語のヒロイン、十和子。
この冒頭のシーンだけで彼女が現在の生活に満足していないのが分かる。
そんな彼女のどこがいいのか健気につくす優しいけれど下品で清潔感皆無の年上の男、陣二。
どんなひどい言葉で罵倒されても二言目には「十和子が心配なんだよ」と見事な尽くしぶりだ。
十和子が惹かれるのは陣二とは異なるビジュアルが良い華やかな生活を送っている男性だ。
しかし忘れられない元彼黒崎は資金繰りに困って十和子を金持ちじじいにあてがうクズだし、クレーム対応をきっかけに知り合った西島は女を口説く時に雑誌の記事をまるで自分の言葉かのようにペラペラとしゃべる薄っぺらい妻子持ち。
十和子はそういうネガティブな部分を知ってもなお、彼らを嫌いにはならない。
この物語を見終わったあと、陣二の無償の愛に強く心打たれるが振り返ると十和子もまた同じく好きな男には尽くす女なのだ。

陣二の十和子への愛は親が子に注ぐ愛情に似て見えた。
自分は種なしだと言っていたけれど父性が強く、子供が出来ていたならばいい父親になっていただろう。
出会った頃は清潔感があり普通の真面目そうな男性だったのにどんどん下品になっていったのもきっと何か理由かある。

一番グッときたのは浴室で血のついた衣類を洗う陣二が十和子が昨晩の記憶が無いと気づいて嬉しそうにしている絶妙な表情。
この物語で一番幸せだったのは何でもしてあげたいと思える相手と過ごせた陣二だったと思う。
のちゅー

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