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ティーンスピリットのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ティーンスピリット(2018年製作の映画)
2.0
[エルちゃんってだけで満足すんなよな!] 40点

今年はエル・ファニング作品が二作も公開されたのに、そのどちらにも見送ったのは人生最大級の愚行だと信じている。ってことでそんなささくれた心を癒やすべく、彼女の主演最新作を覗くことに。イギリスの田舎に暮らすポーランド系少女の話なのだが、その母親役でアグニェシュカ・グロホフスカが出ていくことに心臓が止まる(そこかよ)。彼女がお母さんとか、それだけで泣けてくる。おっさんがエルちゃんに"お前の母ちゃんキレイやな"と声をかけるシーンがあるが、ホンマそれって感じだった。その言葉にマジ照れするエルちゃんも超かわいいんだけども。

物語としては、田舎に暮らす歌好きのエルちゃんが、"Teen Spirit"というオーディション番組を通して成長しつつスターダムを駆け上るという何のひねりもないシンデレラストーリーである。なんかこういうフランス映画あるよねって感じ(ひでえ偏見)。田舎に暮らしてるんだけど、別に田舎暮らしに飽きているって感じもなく、別にそこまで絶望的に飽きているというか"普通の生活に刺激が足らない"って感じ。つまり、別に田舎にしなくても良い。マックス・ミンゲラ、絶対ボンボンだし田舎の生活なんか分からんやろ。

そんな彼女はオーディション番組を通して変わろうとする。パブで歌っていた時、唯一聴いてくれたヴラドという元オペラ歌手がマネージャーになってくれると言う。短い練習描写の後、最終選考に突入して、なんだかんだ残る。母親との軋轢がサラッと片付けられてしまうのはなんだか勿体無い。彼女の中の衝撃的な場面として、母親が見知らぬ男とキスしているとこを見てしまったというシーンがあるのに触れられることもなく、母親も素直にヴラドを信じているため、この軋轢が何かを生むことはない。例えば、母親は唐突にエルちゃんが大事にしていた馬を売るが、これを契機に関係が破綻するわけでも見直されるわけでもなく、宙ぶらりんのまま流されていくのだ。翻ってヴラドとの関係は、師弟関係というか共犯関係というかという感じで結構丁寧に描いている。父親を幼くして失ったエルちゃんと疑似的な父子関係を育むという感動的な話なのさ。

勿論エルちゃんが歌うシーンが一種の区切れとしていくつか配置されているんだが、普通に歌上手いと思った。でも、そんなに評価高くないとこをみると、私とてフランス・ギャルとか好きだし、耳が壊れてんのかもしれない。彼女が歌ってるシーンの変遷も面白い。当初はそれまでの人生や日常の退屈さをぶつけるように歌っていたので、回想などを繋げていたが、後半になると歌うことそのものに集中するようになったのか、歌うエルちゃんだけを映すのだ。ただ、最後のライブシーンは力強い描写が続くんだけど、そこまで"こ、これは!"と思わせる何かが足りない。積み重ねが足りない分、成功のカタルシスも少なめなんだろう。

いつだったか、誰かが"現在のハリウッドでレベッカ・ホールの使い方を心得ている人間は一人もいない"という文言を読んだことがある。今回、彼女は本番前に歌手を青田買いする大手レーベルの担当を演じているんだが、その独特な目による存在感はあれど、別に彼女じゃなくてもいい役だった。加えて、その契約を巡ってヴラドと喧嘩になるという二次的な副産物がメインとなり、契約自体は映画的にどうでもいい立場になっているのだ。ということで、レベッカ・ホールも食い下がること無く即退場。勿体無いな。

ってな感じで、田舎暮らし、一本道のサクセスストーリー、十代の悩みや生活、歌うまでの道のり、母との確執、レーベルとの怪しい契約、他選手による妨害、などなどどれをとっても中途半端。エルちゃんってだけで満足すんなよな!私は満足しちゃったけども!
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