nyano0720

最高に素晴らしいことのnyano0720のネタバレレビュー・内容・結末

最高に素晴らしいこと(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

映画なので、どこかハッピーエンドを期待した自分がいたが、フィンチは湖から戻って来なかった。普段意識することもなかった圧倒的な現実を目の当たりにした。
一方で、バイオレットがエンディングでフィンチに連れて行ってもらった場所を仲間と再び訪れ、フィンチが確かに存在したことを確認し、自身の心の傷を乗り越え前向きに生きる姿勢を見せたのはこの映画のせめてもの救いの部分。
前半部分フィンチがバイオレットの傷を癒やし、バイオレットが恋に落ちていく描写はただただ美しく、これぞ映画という感じだった。二人だけの世界のなんと美しいことか。振り返ってみると、フィンチが魔法をかけた世界での幻想であるとすら感じた。そして、それが後半の描写の悲壮感を際立たせている。
父の呪縛から逃れられず、バイオレットが差し出した手を振り払い現実の世界から逃れるように姿を消したフィンチ。彼が生粋のロマンチストであるが故に、愛する家族や恋人にすら弱さを見せきれることができなかったことが本当に痛ましく残念。「現実」が用意したシステムが全く機能しないことは皮肉。フィンチが見せた小さな小さなサインに最愛の姉さえ気付けなかったことが非常にリアル。最後にバイオレットがフィンチに対して差し出した手が、姉を失ったトラウマと若さから、乱暴であったこと、手を差し伸べるだけでなく彼を抱きしめられなかったことも悲しい。
この映画が描いた問題は、我々の周りでもただ見出されず見過ごされているだけで、日常に溢れていること。それが浮き彫りにされたと思う。フィンチのことを忘れないでいること、同じような人が周囲に居ることを見過ごさないことが、せめて我々ができることと思う。
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