TaiRa

大人のためのグリム童話 手をなくした少女のTaiRaのレビュー・感想・評価

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グリム童話の『手なし娘』を独特な手法でアニメ化した作品。監督のセバスチャン・ローデンバックが一人で全作画を手掛けた。

筆ペンで描いたデッサン調の絵。手で描いた一本一本の線が躍動しキャラクターに生命感を与える。画面は余白が多く、キャラクターの線も必要最低限しかない。時には線が消えたり、感情に沿って線が浮かび上がったり。顔もはっきり認識出来ないし、主人公の少女は名前も分からない。父親が悪魔と契約してしまい魂を狙われた少女。清らかな彼女に手を出せない悪魔は両腕を切り落とさせる。このシーンの間が凄い。痛覚に訴える。両腕を失った少女は父親を捨て旅に出る。王子と出会って結婚もするが、そこに自由はない。子供も産むが育てるのは乳母で、何もさせて貰えない。悪魔の陰謀で城を追われた少女は、子供を連れて安住の地を見つける。服が木に引っ掛かり布が破れたり、黄金の義手を川に捨てる行為が、この後彼女の行方を追う者がいる事を予感させる。抽象的な作画ではあるが一つ一つの動作が生々しい。赤ん坊を抱える時の所作も細かい。『かぐや姫の物語』の影響があるのかと思ったが、制作時期は被ってるらしく偶然らしい。音楽もクール。クラウトロックのような曲もある。エンディングの主題歌は歌詞も良い。少女はよく液体を流す。涙も血も母乳も尿も。生きている事を表明する様に。作物の種を植える時に腕を土に突き刺す度に血が流れるのは特に生を感じさせる。川で始まり川で終わる。束縛を否定し生と自由を謳歌した少女は真の愛を得る。
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