シャンバラの雨

マザー!のシャンバラの雨のネタバレレビュー・内容・結末

マザー!(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

悪夢の具現化。大傑作。
ダーレン・アロノフスキー最高傑作だと思います。が、嫌いな人はとことん嫌いになるでしょう。映画の前半がイライラを楽しむのを前提としているため無理もないです。
しかしその観客がフラストレーションを感じてしまう事こそがアロノフスキーの思う壺であり、彼の演出力の高さを証明しています。その際たる例が洗面台のシーンでしょう。あのシーンほど不快で(架空であるにも関わらず)登場人物に対して怒りを覚えるシーンはなかなかありません。その怒りが成り立つのも“家”そのものを夫婦で共に創造したある種の命としてどれほど大切にしているかが導入部分で充分に説明されているからこそでしょう。
そして終盤の来訪者たちによる破壊シークエンスは、事態の悪化が加速していくのを感じると共に、決して俯瞰ではなく自らの命の危険性も感じさせる恐ろしいもので、その裏に隠されている比喩的な意味が分からなかったとしても、普段絶対に体験できない狂乱を大いに楽しむことができます。さらにメタファー的な部分でこのシーンは作品のメッセージに直結する非常に重要な役割を果たしていることがわかります。

もう公開からしばらく経ち、この作品の解釈は一つに絞られたのではないでしょうか。一番出回っている聖書をなぞらえているという説が最有力だと思います。しかしそれがこの作品の言いたい事だったとしたら、むしろアロノフスキーは神に対して意外にも批判的な視点を持っているのではないでしょうか?
神の比喩であるバビエル・バルデムの来訪者たちへの異常なまでの寛大さはマザーにとっては平穏を見出す原因として映っているので、アロノフスキーは神の人間に対する不干渉さを悪い意味に捉えているとも考えられます。アロノフスキー自身は熱心なキリスト教信者ですのでそう考えると矛盾が生じてしまいますが。しかし結果的にはこの作品の最大のメッセージはずばり環境汚染だと思います。そしてラストの無限ループは古代核戦争説に対する言及かな?
とにかく初見時では意味がわからなくても不条理ものとして十分楽しめると思います。