紅蓮亭血飛沫

ゆれる人魚の紅蓮亭血飛沫のネタバレレビュー・内容・結末

ゆれる人魚(2015年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

人魚姉妹、ゴールデンとシルバーが人間との触れ合いを通して描かれる、ミュージカルとホラーを併せ持った奇妙な作品です。
おそらく本作は童話作家・アンデルセンが執筆した『人魚姫』をベースにしたもので、人魚が辿る悲しくも美しい物語が展開されていきます。
人魚姉妹の正体は序盤から明かされる事もあり、中々に凝っている人魚の造形に期待も膨らむというもの。
人間を食らうシーンにおいてはグロテスクな描写としてもちゃんと機能しており、尚且つ人魚達の“歯”が人魚のイメージに似つかわしくないエグさを発揮しているのも良いですね。
更に、ストーリーが進むにつれて展開される、ステージでの歌唱シーンがこれまたいい曲だらけでして、掴みはばっちりでした。

本作は姉妹二人による歌唱シーンが多く、これがまた魅惑的な声色を放つものですから見惚れてしまうのが嬉しい。
ですが、逆に言えば歌唱シーンがかなり多いため、少々くどく感じてしまうのも否めませんでした。
勿論、全編通して素敵な歌声と曲に魅入られるので私はそこまで邪険に扱いこそしませんが、気になる人は気にしてしまうかな、と。

本作の大きなテーマは、“人間に恋をしてしまった人魚の末路”。
それこそ“シェイプ・オブ・ウォーター”が人魚に恋をしてしまった女性を主軸としていましたが、本作では人魚がメインですね。
ミュージシャン・ミーテクに恋をしてしまった人魚・シルバーは、自分が人魚であるからこそ成し遂げられない、性への渇望に飢える事となります。
人間と同じように、愛する者同士による性の営みを行う事が出来ないという虚しさから、彼女は下半身を切断し、別の人間の下半身を移植する、というとんでもない行動に。
思わず声が出てしまいそうになる、残酷なれどシルバーの覚悟がしっかりと詰まったいいシーンでした。
その代償として彼女の持ち味である“声”をも失ってしまう、というのもやるせない・・・。

しかし、人魚には一つの戒めがありました。
人魚が人間を愛してしまい、その愛した人が別の誰かと結婚でもしたら人魚は泡になってしまう・・・という宣告。
追い討ちを掛けるように、ミーテクはシルバーが手術をした箇所から流れる血を見てゾッとしたかと思いきや、距離を置くようになってしまう。
そのまま他の女性と恋に落ち、結婚式まで挙げるものですからさぁ大変。
あの宣告通りの結末が刻々と近付いてしまいます。
言わばミーテクの所業は鬼畜のそれなのですが(シルバーは自分の特徴である人魚の造形も、自慢の声までも捨てたわけですから)、これを若気の至りと感じるか否かは人それぞれでしょう。
そもそも人間が人魚と結婚、なんて事自体周囲の人が認めてくれるとは思えませんもの。
かといってシルバーからすれば堪ったものじゃありませんが・・・。

初めての恋のために自らの体も声も捧げたというのに、悲痛な現実を突きつけられるシルバー。
そんなシルバーを不憫に思いゴールデンはあの戒め通り、シルバー自らの手で憎きミーテクを殺すべきだと催促。
それでも尚、未遂の場面で思い止まり、ミーテクの胸の中で穏やかな表情を浮かべながら泡となっていったシルバー・・・。
人と人ならざる者の恋、その悲しい結末は中々に楽しめました。
人魚、という題材をひたむきに美しいものだと描かず、R-15指定だからこその相応のエログロと残酷さを用いて“人間と大差ない生物”と言わんばかりの力強いメッセージ性を感じました。
万人向けではないと思いますが、映画好きの方は一見の価値ありかもです。