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空飛ぶタイヤのam360のレビュー・感想・評価

空飛ぶタイヤ(2018年製作の映画)
3.8
 池井戸作品は、主人公に自己投影しながらテレビ画面に食い入る夫が見切れている状態での、日曜9時の風景であって、なんとなく、その世界観は把握している、という程度。
 奇しくも日曜(午前)9時上映の回は、夫の同好の士と思われる、でもも少し年齢層高めの方々でほぼ満席。そして、ほとんど全員が満足して帰られただろうと思う。
 人気の高さのよく分かる、単純明快、勧善懲悪、スッキリ爽快のストーリーもさることながら、この映画の成功(公開間もないけど、敢えて断言)の秘訣は、一目でキャラクターを把握できるキャスティングだろう。

 大雑把に言っても、運送会社、大手自動車メーカー、銀行、警察という組織、そこから更に細分化された関係各所、それに付随する様々な立場から次々と登場するキャラクター。ちょっとぐらい竹内涼真と山崎賢人の区別がつかなくたって、「前回までのあらすじ」でゆっくり時間をかけて把握していけばいい連ドラと違って、映画にはいかんせん時間がない。とにかく次々出てくる。えーと、これは誰だっけ?なんて思っているうちに話はどんどん展開する。

 しかし、この映画ではそんな心配は一切いらない。
 主人公の長瀬は当然として、ほぼ全ての登場人物が画面に現れた途端、瞬時に「いいもん」「悪もん」に判別可能なのだ。それはもう熟練のひよこ鑑定士並みに。
 原作未読でも、私のように池井戸ワールドほぼ初体験でも迷いなく、「さてはおディーン様、こう見えて実は初のヨゴレでは?」なんて疑ったり裏切られたりという心配もなく、安心して長瀬に肩入れできるという仕組み。ありがたい。

 どこかで見た一生、またお前かムロツヨシ、何度見たのかこの体の小池栄子、揺るぎない岸部一徳。
 役者の演技力というより、それまでのキャリア、それに伴う本作でまとって欲しいオーラを主眼にキャスティングしたんだろうかなぁ、未読だけどきっと重厚であろう原作をギュッと2時間に収めようとしたら、そういうカスタマーサービスも映画の手法としてありなんだろうなと感心した。

 もちろん、その上での演技力も見応えありまして、登場シーンはわずかだったものの、佐々木蔵之介の貼り付いた表情は特殊メイクではなかろうかと思えるほど役に入っていて凄みがあったし。

 諸々積み上げての、分かり易いストーリー。映画サイズのエンターテインメントでありました。

 とは言え、私が唯一「こ…これは?」と判別に迷ったのが津田寛治で、そういう意味で面白い役者さんだなぁ、と。
 いつにも増して、徹頭徹尾主観。
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