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孤狼の血のstneのレビュー・感想・評価

孤狼の血(2018年製作の映画)
4.5
見終えたあと、思わず拍手をしてしまった。一人、新宿のど真ん中の劇場で。

昨今の表現規制の流れを諸共せず、ここまで警察組織、権力組織をこけおろす。なおかつ今旬の俳優陣と、そしてこの全国規模での上映。「東映の本気を見た」と随所で言われているが、映画といえば洋画の僕にとっては、日本映画の本気を見た、である。そこから出た喝采だったのだ。


ヤクザの抗争、警察の欺瞞、暴力と性、男と女。映画としてのエンターテイメント性を確立させながら、それでいて社会に浮上している問題にしっかり観客を向き合わせる。
「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」「彼女がその名を知らない鳥たち」白石監督の作品群には総じて、エンタメとしての映画を作りながら、観客に考える幅を持たせる。本作もそれに漏れない。いや彼の作品のクオリティや規模感はどんどん向上してるように思える。

責任転嫁する大人、隠蔽気質、大義なき社会といったテーマたちは、今まさに問題になってる内閣の隠蔽問題や、本当のことを話さない日大アメフト部の大人たちと重なりをみせる。真の大人がおらず、目指すべき指標がない社会。今、この日本という国で見るべき作品だろう。

ストーリーは強烈な熱量を持って進んでいく。
役所広司演じる大上の思惑と十数年前の事件、そして犯罪同等のやり方で捜査を進める彼を監査する日岡(松坂桃李)の視点を軸に物語がズンズン前に行く。広島の夏の蒸し暑さと、暴力、エロスそして罵倒に怒号が館内を圧倒する126分だ。


警察としてあり得ないようなことをしつつ捜査を進めていく大上の、隠れた部分が明らかになった時、考えさせられるものがあった。大義などなく、正義もない中で、それでも大上が持つ一つの指標を知らされる時、そこには彼なりの生きる理由がある。インタビューで監督が「彼こそ本当のヒーロー」と言っていたのが印象的だったが、まさにそういうことだったのだ。

「男達よ 命を 焼き尽くせ」という宣伝広告のコピーを随所で目にした。今僕たちは正直なんのために生きているのか掴めてない。何に命をかけることができるのか。そんな世の中だから、自分の正義のために死すら辞さない彼らの生き様に強く惹かれてしまう。決して肯定される生き方ではないことを前提においても、だ。

劇場を出て、外を歩くといつもの新宿とはどこか違う気がした。強力な映画は時に世界の見方を変えてしまう。それこそが映画がただのエンターテイメントに収まらない理由である。
帰りの山手線で様々なことが頭を巡る。自分たちはどう生きるか。映画の熱量に押されて、その余韻は数日続く。