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暗くなるまでには/いつか暗くなるときにのayのレビュー・感想・評価

4.0
初長編「ありふれた話」に続く、タイの気鋭の監督アノーチャ・スウィチャーゴーンポンの長編2作目。みておいてよかった。
てっきり 、タイの歴史のなかでなかったことにされている という1976年のタマサート大学虐殺を語りなおす物語かと思ってたら。しばらくするうち、映画自体が物語ることそのものを放棄したかのように、はっきりとした意味や論理や連続性を求めるのが難しいイメージの断片が映像のなかにあふれ出し、登場人物は絶えず入れ替わって、リリカルでコズミックでノイズや穢れもとりこんだ世界をかたちづくってゆく。人生ははかなく不確かな幻影に過ぎない。でも、夢のように美しい束の間も、確かに存在する、とでもいいたげに。

自由にものが語りにくいタイの政情も影響してるとは思うけど。おそらく監督自身も終着点はみえないままで、わからない地平にたどり着きたい願望を抑えきれなくて、映画を撮っているところがある。目の前で境界が崩れていく。静かに過激。輪廻や内的世界を思わせ、危うさもある作風。それでも、彼女の作品は極めてエレガント。緻密ではりつめ高度に洗練された芸術性、やさしさ穏やかさを備えて理知的に世界を観察する科学者の目などが、複雑に同居する。人によっては心をぎゅっとつかまれ、インスピレーションを直に受け取って、創作のトリガーにもなるんだと思う。


● Asian Film Joint | アノーチャ・スウィチャーゴーンポン関連ツリー
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