MINAMI

ソウルメイト/七月と安生のMINAMIのレビュー・感想・評価

ソウルメイト/七月と安生(2016年製作の映画)
4.1
 あなたが、親友か恋人のどちらかを選べと言われたら、どうするだろう。
 恋人は、もしかすると今後、家族として一生を共にするパートナーになるかもしれない。また、お互いに一番に考え合うということを、陰に陽に約束している相手だ。性的な欲求やつながりも満たしてくれるかもしれない。そう考えて、多くの人は恋人を選ぶのではないだろうか。親友は大事だけれど、恋人に走るのではないだろうか。
 でも、それはどこか打算的な感じがする。まったくもって美しくない。
 それに対して、親友にはそんな未来も約束も見返りも欲望もない。あるのはただ、お互いを思う気持ち、大切にしたい気持ちだけだ。相手も自分を大事に思ってくれていると信じるしかない。それだけでつながっている。だからもろくて壊れやすい。思いが強ければ強いほど、破滅するエネルギーも強くなる。
 だから親友は尊く、そのつながりは純粋で美しい。そんなことを見せてくれ、考えさせてくれる映画だった。
 今回は、設定と展開を少しなぞりながら、書いていきたい。

●裏切らないためには去るしかなった
 この映画の主人公二人、安生と七月は子供のころからの親友である。お互いに思い合い、何があろうと離れたりしないように見えた。
 やがて高校生になった七月に、家明という恋人ができる。そこから七月と安生の関係はきしみ始める。安生は、親友の恋人である家明のことが好きになってしまうのだ。家明のほうも安生に惹かれる。好きになる気持ちはどうしようもない。
 しかし、安生は親友を裏切ることはできない。だから、好きという心に蓋をする。家明とこれ以上近づいてしまわないように、地元を離れ、遠くの町へ行くことにする。
 表向きの理由は「自由になりたい」ということになっているが、本当は違う。それは口実で、七月と家明の元から離れ去らなくてはいけなかったのだ。そこに自分がいたら、親友と恋人との仲を引き裂いてしまうかもしれないから。
 自分が培ってきたすべてのものを捨て去ってまでも、七月を裏切らないことを選んだのだ。 

●「わたしは家明より絶対あんたを選ぶ」
 遠くの地に行った安生は、荒んだ生活を送る。そういうタイプの生き方しかできない人かとも思わせるが、安生は決して、望んでそうしているわけではない。すべては七月の邪魔をしないために、無意識のうちに、そういう生き方を選んでしまうのだ。
 しかし、安生は心に蓋をしきれなかった。家明からもらったネックレスを密かにずっと身に着けていた。そして、七月に出す手紙の最後にはいつも「家明によろしく」と書いてしまった。でもそれだけだ。思いを行動に移すことはせず、遠くの地で生き続けている。
 なんといじらしいことか。可哀そうなことか。切ないことか。
 しかし、安生と家明は再会してしまう。ぼろぼろに傷ついてた安生は、家明にすがりついてしまう。家明も安生に優しくしてしまう。
 それに気がついた七月は安生を責める。そのとき、安生の目からつーっと涙が流れ落ちる。そして「わたしは家明より絶対あんたを選ぶ」とつぶやく。それが冒頭の写真のシーンである。
 この映画を象徴するシーンだと思う。

●強すぎる思いがつながりを破壊する
 恋人より、家族より、七月のことを何より大事に思っているのに。自分が壊れるほど七月のことを思っているのに、安生の気持ちは伝わらない。
 もちろん安生は、そんなことを押しつけがましく言ったりはしない。一筋の涙を流してぽつりとつぶやいただけだ。
 本当は何もいらない。七月さえいてくれればいいのだ。でも現実はそうならなかった。
 一方、七月も安生のことが一番大事なのだ。でも恋人も、それはそれで別のこととして大事にしたいと思っている。親友と恋人は両立すると思っていたのだと思う。
 そんな風にお互いの思いは同じくらい強くても、少しベクトルがずれていた。だから、その強さがずれの隙間に吹き込んで、二人のつながりを破壊してしまった。悲劇へと突進させてしまった。
 二人のお互いを思う思いは強く、激しすぎたのだ。 
 うーん、とても切ない。難しい。なんだろう。純粋であればあるほど、維持するのは難しい。いい加減だったり打算的だったりするなら、適当に乗り越えられるのに。
 人間のつながりってそういうものなんだと思った。
 私は、このシーンが一番好きだ。

●恋人よりも親友を見つける方が難しい
 親友ってなんだろう。恋人よりも家族よりもつながりが深かったりする。でも、やっぱり家族以下なのだ。家族や恋人には遠慮しなくてはいけない。
 親友がお互いに、恋人よりも親友を選ぶということになればいいのだけれど、2人が同時にまったく同じ気持ちになることなどありえない。それが人間だ。タイミングや方向性が少しずれてしまうだけで、壊れてしまう。一方通行になる。
 安生の「恋より親友を選ぶ」というセリフは、心の底からの言葉だったと思う。最高に愛おしい。そして切なくて悲しい。
 おそらく、恋人よりも親友を見つける方が難しい。そこには計算が働かないから。
 コスパばかり重視される時代に、何も見返りのない、ただお互いを思い合うだけのつながりなど、ありうるのだろうか。あってほしい……
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