MINAMI

勝手にふるえてろのMINAMIのレビュー・感想・評価

勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)
3.9
 綿矢りさの原作小説を先に読んでいたのだが、小説とは全然違う印象を受けた。あれ、こんな話だったっけ? そう思えるくらい、映画は独自の世界を作り上げていた。
 綿矢りさ作品は、女性がふだん表に見せない、心の奥底で思っていることや願っていることをさらけだす。ときには、えげつなく思えるくらいにありのままに。
 それでいながら、やさしく軽快で、どろどろしていなくて、どこか上品な香りが漂う。それが不思議な魅力だ。
 でも映画は、かなりぶっ飛んでいて力強かった。

●ほんの少しの希望に人生の10年間を捧げるなんて
 松岡茉優演じる主人公ヨシカは、中学生時代の同級生イチのことを、10年以上ずっと思い続けている。イチ一筋で、イチ以外の男性を好きになったことはない。
 でも、イチが自分に対して特別な思いを持っていないことは薄々わかっている。可能性はゼロに近い。
 彼女にあるのは、ほんのわずかな体験と記憶だけ。

・運動会のときに話しかけてくれたこと
・同じ言葉を何度もノートや黒板に書かされ罰を受けていたイチに対して、1つだけ反対の言葉を混ぜたらと言った自分の助言通りにしてくれたこと

たったそれだけだ。それだけのささやかな体験で、もしかするとイチは自分のことを、他の人と違う存在だと思ってくれているかもしれないという、かすかな希望を託す。そして、そのまま10年以上過ごしている。
 ものすごく惨めで悲しい。人間って、そんな小さな希望にもしがみついてしまうものなのだな。うん、そうそう。
 それでも、ヨシカはやっぱりイチが好きで、イチしかいないと思い込んでいる。それは、ある意味幸せなのかもしれない。
 しかし、イチに会うために無理やり設定した同窓会で、イチは自分の名前すら憶えていないことが発覚する。それで、かすかな希望も吹っ飛んでしまう。もうまったく望みがないことを思い知らされる。
 ヨシカの辛い気持ちが痛いほど伝わってくる。しかし、ヨシカにとって、もっと辛いことが起きてしまう。

●ああ、本当に孤独だったんだ
 一番親しい同僚に、自分がこれまで誰とも付き合ったことがないという秘密を話したら、それをばらされてしまった。同僚に悪気はないのだが、それが彼女にとって一番ショックだった。イチに名前を忘れられていたときよりも。
 そして、ヨシカはとんでもない行動に出る。それはぜひ、映画や小説で直接確かめてほしい。えげつない行動なのだが、小説も映画もこのあたりの描写がテンポよく進んでいくところは似ている。でも、小説では抑制が効いていて、先ほども述べたように、なぜか上品な感じすらする。
 それに対して映画のほうは、とにかく、スピード感にあふれていて、ちょっとミュージカル仕立てのようにもなっていたりして、たたみかけるようにパワフルに進んでいく。それがまた、ヨシカの孤独をいっそう浮きだたせる。
 私が一番悲しかったのは、ヨシカが、釣り人のおじさんや店の人などに毎日話しかけていて楽しく過ごしていると思っていたのに、それらがすべて妄想だったことだ。一人でいても、いろんな人とつながれるものだな、そういう関係もいいなと思ったりしていたのだが現実ではなかった。
 そう、ヨシカは本当に孤独だったのだ。一人で叫んだり、頭の中でおしゃべりしたりはするが、現実世界ではとても孤独な生活を送っていたのだ。
 映画がパワフルな分、とても痛々しい。胸がつぶれそうになった。

●なぜ人は孤独を分かち合えないのかな
 でも、現実の世界では、多くの人が孤独なのでないか。私も孤独だと感じることがよくある。SNSなどを見ていても孤独で寂しいというような書き込みはたくさん見られる。
 そう、みんな孤独なんだ。だったら、孤独な者同士、分かち合えばいいと思うのだが、なかなかそうはうまくいかない。どうしてなのだろう。
 世の中の一部には、孤独を感じない幸せな人もいる。また、一人の人が、あるときは孤独で苦しくても、あるときは孤独でなくなって楽しく幸せであることもある。
 そうすると、人は孤独からは抜け出せるはずと思い、孤独であったことを忘れてしまう。孤独は悲しいもの、よくないものとして、忘れようとしてしまう。自分は孤独ではない、不幸ではないということを自分に言い聞かせ、生きていく支えにするのではないだろうか。
 私の考えが正しいのかは自信がないが、とにかく、なぜか人は孤独であることを忘れ、隠し、お互いに分かち合うことができない。そういう意味で、孤独は人間にとって避けられないものなのかもしれない。力を合わせて抜け出すべきなのに、そうできないものなのかもしれない。
 なんだか、悲しくなってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーー

 綿矢りささんの小説は大好きなのですが、こんな映画になるんだと驚きました。それでも、痛々しいところは同じで、胸が苦しくなります。
MINAMI

MINAMI