蛸

ファースト・マンの蛸のレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
4.0
人類史に残る偉業(=月面着陸)を背景にしながらも、全編を通してニール・アームストロング個人の感情に焦点が当てられるとてもパーソナルな映画。
それは、とにかく(物理的に)被写体との距離が「近い」この映画の映像を見れば一目瞭然(宇宙での任務の際にも、宇宙船の内部が延々と映され、カメラが宇宙船から離れることがない)。
もちろんこの「近さ」は、観客に宇宙におけるミッションの臨場感を与えるためのものでもある(宇宙船内部における計器の数値のブレや振動、飛行士の吐息などによる演出が緊張感を生む)。
また、この「近さ」は対象の感情を掬い取るためのものでもある。
この映画において、アームストロングは露骨に感情を表に出さない人物として描かれている。そのため、この近さに寄ることで初めて普通なら見逃ししかねない彼の感情表現を捉えることができるようになっている。
しかし、それでも観客が彼の感情を充分に追うことができるかというとそれは疑問。むしろこの「近さ」をもってしてもなお到達することが出来ないアームストロングの心中が強調されているように思えた。
その分、何度か繰り返される彼の孤独を示したかのようなロングショットが印象的だった(暗闇に囲まれてほのかな明かりの中で佇むアームストロング、または夫妻を捉えたショット)。

冒頭の娘の死や、宇宙開発に伴う犠牲によって全編、葬儀に次ぐ葬儀といった感じでとても死の匂いが濃厚な映画だが、他のレビュアーの方がされていた、「娘の死に囚われ続けた男が月(=死後の世界)に行くことで解放されるお話」という解釈が腑に落ちた。

月面着陸をモチーフに選びながら宇宙へのロマンも微塵に感じさせない非常に変わった映画を作ることができたのは、『ララランド』のヒットあってのことかもしれない。試みとしては非常に面白いけど、2時間半の長丁場に少し退屈を感じたのも確か。
蛸