けーはち

タイ・カップ/Cobbのけーはちのレビュー・感想・評価

タイ・カップ/Cobb(1994年製作の映画)
3.3
タイ・カッブが自伝の共著者として選んだスポーツライターに自分の人生を語り聞かせながら同行させるロードムービー型の、実在人物の伝記モノ。

タイ・カッブは近代野球のパイオニアとも言える名選手。野球の殿堂入り第1号。同時にアグレッシブすぎるプレイやすぐ銃を振り回すことで知られる性格破綻者、差別主義者、八百長疑惑、黒い交際関係、やじを飛ばした観客(障害者)を殴り飛ばすなどの素行の悪い問題人物。さらに後のゼネラル・モーターズやコカ・コーラの株で財をなした投資の天才でもある。荒木飛呂彦『変人偏屈列伝』で取り上げられていたね。

老いてますますやりたい放題なタイ・カッブを演じるのはトミー・リー・ジョーンズ(この頃、彼は50歳前くらいのハズだが老け役が多いのか、前からずっとお爺さんだった気が……👴)、自伝の共著者アル・スタンプをトム・ハンクスを少し凡庸にしたような顔のロバート・ウールが演じる。

最悪な性格の彼に付き従いながら、伝説の野球人としての輝かしい「栄光」と、その裏に潜む人嫌いの偏屈な奇人の孤独、その元になったショッキングな父親の殺害事件(母親が浮気相手と組んで父親を殺した)などが与えた影の両面を綴り──

迷いに迷って作家は'61年、カッブの死後、ヒーローとしての「栄光」のみを記した自叙伝(My Life in Baseball)を上梓することを選ぶ。それはベトナム戦争の泥沼化する時代の要請でもあるだろう。

しかし、この映画自体、30年後、同著者が出した影の側面を綴った本(Cobb)を原作にしている。「今まで我慢してたけどようやく告白したぜ!」っていう……そこを踏まえて見ないと、本作はぼんやりした印象の映画になる(多分、映画公開当時のアメリカではこの本がベストセラーになっていて前提が共有されていたんだろうが、劇中では語られないので、今の日本人には分からん)。

そんな構成にせずともタイ・カッブの破天荒な生き様をそのまま映画にすれば、もうちょっと面白かった気はする。

公開時の邦題が『タイ・カップ』なのはかつて日本で誤植のままの表記が広まったのでそのままらしい。