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セザンヌと過ごした時間のメルのレビュー・感想・評価

セザンヌと過ごした時間(2016年製作の映画)
3.7
画家セザンヌと作家エミール・ゾラの少年期からの友情と、その友情に亀裂を入れたと言われているゾラの作品「制作」に絡んだエピソード。

中学でいじめられていたゾラを助け、お礼にゾラから籠いっぱいのリンゴを貰い仲良くなった2人。

後にセザンヌは「リンゴ一つでパリを驚かせたい」と言い、実際にリンゴの画家と言われるようになるが、それはずーっと後の事。

ゾラは作家になり「居酒屋」で名声を得たが、セザンヌの絵はことごとく落選。落選した画家の展覧会にも落選するという不運。

そんな時にゾラの新作「制作」が発表される。
その主人公は革新的な画家で才能はあるのに中々成功せず最後は自分の絵の前で首を吊って自殺するという話。
それだけでは無く、その画家はいろいろな点でセザンヌに似ていた。

その本の出版を機にセザンヌはゾラとの付き合いに終止符を打つ、というのが今までの通説だった。

しかし、今作ではその後の話も描かれていた。
初めは脚本家の想像上のストーリーだったのが、最後の手紙だと思われていた物の後に「君に会いに行くつもりだ」というセザンヌからゾラへの新しい手紙がその後に見つかったらしい。

28年間で76通のセザンヌからの手紙をゾラは保管していた。
それはやっぱりゾラがセザンヌを大切に思っていた証拠ではないだろうか。

プロヴァンスにこもり、本人の希望通り絵を描きながら死んだセザンヌ。
今では「近代絵画の父」と言われピカソにも大きな影響を与えたと言われている。

一説には兎に角セザンヌは絵が下手だった、遠近法も質感も出せない位下手だったが、長年描き続けている内に実物と同じ様に描かなくても絵は絵で良いんだと、時代が彼に追いついた…という見方もある。

セザンヌは頑固で人付き合いが悪く友達が少ないというのはよく言われるけれど、今作ではちょっとイメージ悪すぎな感じ。

ゾラの研究者によれば疎遠になった理由は諸説あるらしい。
しかし才能豊かな若者が苦労の末に世界的な芸術家になった事にはやっぱり感動する。
それが絵画でも文学であっても。

エンドロールでセザンヌが生涯描き続けたサント・ヴィクトワール山の様々な作品が映し出され、その筆の跡に、モザイクのように並んだ木々の色に執念にも似た絵画への情熱を感じた。
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