Monsieurおむすび

コロンバスのMonsieurおむすびのネタバレレビュー・内容・結末

コロンバス(2017年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

モダニズム建築が街のあちこちにあるコロンバスの地で出会った男女。
歳も離れ、この街に対するスタンスも違う対照的な2人の共通点は建築への造詣の深さと、親への複雑な感情。

やがて建築を通し語られる互いの胸のうちは、其々の縛られてしまった心と、人生に於いての現在位置を浮き彫りにしていく。


これは劇的な事件も、燃えるようなロマンスもなく、モダン建築の冷酷な温もりに包まれながらジンとケイシーが語らいを巡らせ、立ち止まってしまった歩みを、漂流する魂を、再び前へ向けるまでの静謐な心のロードムービー。

洗練された美しさと機能性、光を欲しいままにする透明さに溢れたコンクリートとガラスで出来た完璧な建築物群と、曖昧で脆弱、不安定な2人のコントラスト。
視覚的な違和感でいっぱいのスクリーンはいつの間にか彼らの心模様のままに癒しと真っ直ぐな熱を帯びていくように思え、計算し尽くされた無限の奥行きを感じさせる構図と慎ましい自然光が、その儚げな美しさを捉え讃えていた。
加えて、目を凝らせば場面の奥や端っこにストーリーとは別軸の誰かが居て、その人なりの個性的な営みが確認できる。
また、耳を澄ませば夜の静寂に虫や風の音が軽やかに響き、優しく頬を撫でていくようだった。
小津安二郎へのオマージュを捧げている。とあるが、大仰な手法の模倣ではなく、「建築」という突飛な要素を主軸にしながらも家族や青春、旅立ちという普遍性を、春の風宛ら、温かく静かなエネルギーを込めて描いている。
それはラストシークエンス。
彼らの決断の時に如実に現れ、私の騒つく心情を諭すように穏やかにし、深い深い余韻を残していった。

きっと観るたびに、観れば観るほど新しい発見があったり、分からなくなったりするであろう神秘的なショットの連続。
今後の人生で幾度となく浸りたい大切な1本となった。
Monsieurおむすび

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