シャチ状球体

地獄愛のシャチ状球体のレビュー・感想・評価

地獄愛(2014年製作の映画)
3.5
『依存魔』を観て気になっていたファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督の3部作がU-NEXTで見放題だったので(何故か)制作順を遡って視聴。

最初は特に抱えている悩みもなくて純粋に再婚相手を探している様子のグロリアが、口の巧い結婚詐欺師であるミシェルに出会ってどんどん変わっていってしまう。
ここら辺の描写が妙に生々しく、最初は優しくしておき、家でのデートになったところで初めて「僕に抱きしめられたいんだろ?」みたいな口説き文句で支配的な関係を成立させてしまうミシェルの狡猾さが序盤から炸裂する。

『依存魔』と違って主人公が中年女性なので、短い時間しか過ごしていないのにも関わらず見知らぬ男に一目惚れする過程にあまり説得力がないところは微妙だけど、心を揺さぶられる恋愛に舞い上がって他のことが手につかなくなる経験をした後、それが全て虚像であったことが判明した際にグロリアが見せる不可思議な反応によってこの映画が持つ牙があらわになる。

簡単に言えばグロリアは極度の依存体質で、マイナスに振り切った自己肯定感を埋めるために理想の相手と一時も離れず、(グロリアから見て)愛し合うことでしか生きる意味を見出せない。ミシェルの方もまんざらではないところにこの映画のタイトルが効いており、攻撃性を帯びた二人の愛は次第に引き返せない地点へと歩を進めてしまう。

『依存魔』とは違って二人の関係を客観的に見る立場の大人がいないこと、そして二人ともがその関係に疑問を抱いていないことで映画全体として批判的な観点が生じていない。
また、同じような展開が何度も繰り返されるのはいいけれど、人間ドラマとして特に進展がないので少し冗長気味になっている点を見ると、後作では脚本的な粗がブラッシュアップされていたことが途中から浮かび上がってきた。

ベルギーの闇三部作の一作目、『変態村』に対する視聴意欲が減退するかしないかくらいの映画ではあったけど、流石にクライマックスは派手なものが見れたので一応満足。
まあ、ハネケの『ファニーゲーム』みたいに自己陶酔しすぎて微妙な作品もフィルモグラフィの中にはあるということで……。
シャチ状球体

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